GOLDFISH

その機会は突然やってきた。
2018年1月、伊勢原駅付近で小田急線を撮影し、次の場所へ向かおうと駅に戻って、急行電車に乗り込み発車を待っていると、背後を赤い風が吹いた。
「!!」
次のポイントで撮影しながら待つことしばし、遠くにふたつの白いライトが見え、真っ赤な車両が近づいてきた。GSE (Graceful Super Express) 試運転とはじめての邂逅であった。列車が小田原で折り返して当地に戻るまで、さほど時間はかからなかった。足柄平野を駆け抜けるローズバーミリオンの車体は、西日を反射していっそう輝いていた。

クハ70351 小田急

クハ70351

  • 小田急小田原線 伊勢原←愛甲石田 2018-3
  • D500, AF NIKKOR 50mm F1.4D, ISO125


2018年3月にデビューした「箱根につづく時間(とき)を優雅に走るロマンスカー」、GSE 70000形。特急車両としてはMSE(2008年)以来10年ぶり、展望車はVSE(2005年)以来の採用である。
経年の進んだ LSE (7000形) を置き換えるための新規形式であったが、開発にあたり社内でイメージのポジショニングマップを作成すると、LSEは旧式ながらも独自の強いポジションを確立していることが明らかとなり、後継となる70000形はLSEの確固たるポジションを継承するものとして開発がはじめられたという。開発発表で公開された車両イラストは、ほぼ透過した形で表現される客室部にパンフレットの常套句「(イメージ)」を連想したが、実際に登場した車両はそのイラストに負けない眺望の広さであった。ガラス窓の大きい車両は俗に「金魚鉢」と呼ばれたりするが、GSEの大窓スタイルはまさに当代の金魚鉢であり、車体外部の塗装ローズバーミリオンに展望席から運転台への曲線形状とあいまって、その姿は金魚そのものまで連想させる。
ロマンスカーの伝統であり、象徴ともいえる前面展望席を復活させた一方で、もうひとつの伝統だった連接車構造は見送られ、一般的なボギー台車となった。これは今後整備が進められるホームドアへの対応を考慮したもの。RSE以来の7両編成は、箱根登山線内の有効長と定員確保から決定され、全400席はEXE/MSEの分割6両(352席)より多い。車内は、もはや必須の装備となってきた各席AC電源と、オリジナルコンテンツも配信するWi-Fi接続、大型荷物置場が配置されている。

サハ70151 小田急

サハ70151

  • 小田急小田原線 伊勢原←愛甲石田 2018-3
  • D500, AF NIKKOR 50mm F1.4D, ISO125


歴代最大級とされる高さ(1m)に目が向きがちだけれど、窓の工夫はそれだけではなかった。中間車両の窓配置を見てみると、扉に隣接する窓の大きさが、その隣と幅が違うことに気づく。実際図面上でも両者はそれぞれ1998mmと1710mm、つまり20cm以上の差があった。1列ぶんに配置される窓も、2列窓とのサイズ比が適度なので気づきにくいが、その幅はシートピッチ983mmを超える1005mmとなっている。
一般に客室端部は扉(戸袋)や車端部が近接して、その影響で窓幅が制限を受けたり、戸袋を持たない折戸や外吊りプラグドアなどで回避したりするケースも多いなか、逆に窓幅を広げたところは特筆に値する。座席が最前部になった場合でも、圧迫感なく眺望を確保させる設計である。

クハ70051 小田急

クハ70051

  • 小田急小田原線 開成←栢山 2018-3
  • D810, AF-S NIKKOR 70-200mm F2.8G ED, ISO1600


GSEデビューの〔スーパーはこね5号〕を皮切りにLSEなども含めて沿線で撮影し、日が暮れるとGSEの「金魚鉢」はいっそう際立つ。照明に浮かび上がる7両の客室は、もちろん満席であった。
現時点でもGSEが充当される列車は活況で、7月11日からは第2編成70052×7が就役し、VSEとともにロマンスカーのイメージを牽引していく。そのいっぽうで、LSE最終編成の7004×11は10日で定期運行を退き、当年度中の引退が発表されている。1980年から38年間の現役生活は歴代車両で最長記録であり、くわえてその期間のほとんどを看板特急〔はこね〕の名とともに歩んだ、記憶にも残る車両である。


参考
  • 「詳細図鑑 小田急ロマンスカーの車両技術」 小田急電鉄株式会社 鈴木剛志 板垣匡俊 岩崎哲也, オーム社, 2018
  • 「小田急70000形形式図」 鉄道ファン2018年5月号折込