電車がきます

宇都宮から東北本線で2駅、宝積寺(ほうしゃくじ) から分岐し烏山(からすやま) まで走る烏山線は、関東でも残り少ない非電化路線。宝積寺や大金(おおがね) といった縁起の良い駅名もあり、線内7駅と同線を走るキハ40 1000番台(8両)には七尊のシンボルマークが掲げられている。
これまで全列車の番号が気動車を示す"D"だった同線に、今般2014年3月改正では"M"の列車番号が登場した。"M"は電車を示す列車番号のひとつ、架線のない路線に電車は来るのか? その答えは、同線でデビューした新型車両“ACCUM(アキュム)”にある。

電車もときには自走できない区間へ乗り入れる。山陽時代の151系〔つばめ〕がEF30・ED73牽引で交流電化の九州へ足を延ばしたのは有名だし、80系電車の準急〔草津〕は当時非電化だった長野原線(→吾妻線) へC11あるいはC58の牽引で乗り入れていた。必要になる照明・空調の電源は、連結器の違いを吸収する控(ひかえ)車などから供給される。485系和式電車「リゾートエクスプレスゆう」は俗に「ゆうマニ」と呼ばれるマニ50を連結して水郡線などに乗り入れ、また同系カーペット車両「NO・DO・KA」やE655系ハイグレード車両「和(なごみ)」は編成内にディーゼル発電機を装備し、直接機関車に牽引される。いずれも当該区間では「客車列車」扱いとなる。
ACCUM最大の特徴は、架線なしでも自走可能なことだ。電化区間では架線電力で走行と同時に床下のバッテリーを充電し、非電化区間では電池を使用、終点の駅でふたたび充電する。このように最小限の電気設備でローカル線の「電化」が可能となることが、蓄電池方式の利点といえる。
構内入換や鉱山などでバッテリーロコを使用する例はあるものの、動力とサービス電源を長時間供給するには相当な容量の電池が必要になる。小型軽量で大容量、急速充電可能で高効率のリチウムイオン充電池の進化によって、はじめて本格的な蓄電池車の運用が可能となったのだ。なおACCUMの愛称は、蓄えるという意味の英単語 accumulate から取られたものである。

キハ40 1007-キハ40

キハ40 1007-キハ40 1004

  • 烏山線 下野花岡←宝積寺 2014-4
  • D7100, AF-S NIKKOR 70-200mm F4G ED VR, ISO160

烏山線の列車は、大半が東北本線に乗り入れ宇都宮まで直通する。電化・非電化区間とも適当な距離があることから蓄電池車のテスト路線に選ばれ、烏山駅構内に配電設備を建設して試験車両クモヤE995-1「スマート電池くん」による実地試験が行われた。ちなみに同車はディーゼルハイブリッド試験車として登場し、いったん除籍後燃料電池駆動試験車にもなっていた。
この結果を基に実用車両第一弾として登場したACCUMの正式名称はEV-E301系、EVはクルマではElectric VehicleであるがこちらはEnergy storage Vehicle (車体ロゴはEnergy Accumulating Vehicle)。EV-E301, E300の両形式とも片方の台車にモーターを架装し、国鉄式の標記では「クモハ」にあたる。現在は2両編成1本だが、将来は烏山線の全列車を同系に置き換える計画という。

ACCUMの運転は一日3往復 (1往復は線内折り返し)、時刻表では前述の通り列車番号の"M"で判別可能だ。まずは乗ってみようと、上越線からE7系(これも試乗)→E5系のリレーで宇都宮へ。LED式発車案内にも「ACCUM」の文字が表示されていた。
待つことしばし、宝積寺方からACCUMが到着。架線下でパンタをかざした車両は何の変哲もないローカル電車である。ACCUMは総合車両製作所(J-TREC) が製造する新型ステンレス車体“sustina(サスティナ) ”第二弾だ。第一弾である東急サハ5576のようなアルミ合金製車体そっくりのフラット外板でなく、外見はこれまでのステンレス車と変わっていない。車内の雰囲気はいまどきのJR東日本車に共通のもので、3扉ロングシートでトイレはない。
やがて時刻となり、おもむろに起動したACCUMは宝積寺まで架線集電で走る。烏山線のりばへ転線すると、運転台に「強化架線区間に入ります。」と自動音声が流れた。同駅では烏山線内折り返し列車が急速充電を行うため、ACCUMが停車する位置だけパンタと触れる架線 (トロリ線) を太くして、電流容量を増加させているのだ (パンタ2基を使うのも充電電流確保のためである)。いっぽう終点の烏山では、地下鉄などでよく使われる鋼体架線が急速充電をサポートする。
停車すると運転士は電源を架線からバッテリーに切り替えるが、客室内でそれがわかるのは車端部に設置されているエネルギーモニタの表示内容くらい。続いてパンタグラフを降下させ、2分停車ののち発車。右にカーブを切り東北本線と別れると「稲妻マーク」架線終端標識を通り抜け、電車は青空の下を走りだした。
検査時にはキハ40で代走することになるため運転速度は変わっておらず、ACCUMはゆったりとジョイント音を刻んでゆく。ワンマン運転となり、途中駅では運転台直後しか内側から開かないので戸惑う地元客もいるが、それで発車が少し遅れてもすぐ取り返せそうだ。上りと交換する大金の手前、鴻野山(こうのやま) で試乗を終え、首都圏色 (キハ40 1004: 大黒天) と旧標準色 (1007: 寿老人) のペアで来た道を戻る。

EV-E301-1-EV-E300-1

EV-E301-1-EV-E300-1

  • 烏山線 下野花岡→宝積寺 2014-4
  • D7100, AF-S NIKKOR 70-200mm F4G ED VR, ISO160

宝積寺から徒歩20分、築堤にかかる直線区間にカメラを据える。春の西日が線路北側へ回り込んできた。さきほどのキハ40が烏山へ向かうのを撮ってさらに待つこと40分、左手からACCUMが現れた。
屋上パンタグラフ・スリ板のホーンや床下のリチウムイオン蓄電池のプレートを含め、緑色を基調とする車両の中で両開き扉の中央が黄色く目立つ。最近の車両は視覚バリアフリーの目的で扉内側に黄色いテープを貼っているが、ACCUMでは戸当てゴム自体を黄色くしているのだった。屋上のパンタグラフが降りているのに何食わぬ顔で走っていく電車はどこかヘンだが、ローカル線の新たな近代化策として、やがてふだんの風景になるのだろうか。

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