ゼロマエ・□マエ

「なんだこの列車は!?」
そう言ったのは、ほかでもないJR四国である。2014年3月、四国の南西、宇和島と窪川を結ぶ「しまんとグリーンライン」予土(よど) 線に、なんと新幹線が走り出した。……といってもその実体は、在来線ローカル気動車を新幹線の始祖0系に見立てて運転するというもの。同線で1984年から運行しているトロッコ列車〔清流しまんと号〕、2011年から運行開始したフィギュア列車「海洋堂ホビートレイン」につづく予土線3兄弟 (とこれまたJR四国自身が宣伝している) の末弟が、「鉄道ホビートレイン」だ。
四国は2013年まで軌間可変車両(フリーゲージ) 試験車が長期耐久試験をしていたくらいで、整備新幹線は基本計画の域を全く出そうにない。そんな地域と新幹線の縁は、1964年開業の東海道新幹線計画を推進した第4代国鉄総裁 十河信二(そごう・しんじ) が愛媛県生まれであること。出身地に近い伊予西条駅(西条市) の「四国鉄道文化館」には、0系実車(21-141) のカットモデルも展示されている。

キハ32 4

キハ32 4

  • 予土線 伊予宮野下→務田 2014-4
  • D7100, AF-S NIKKOR 70-200mm F4G ED VR, ISO250

鉄道ホビートレインへの変身は、巷で言われる「魔改造」の域に達していた。愛媛・高知県のローカル運用についているミニDC キハ32の1両 (キハ32 3) 全体をアイボリーと青でラッピングし、さらに0系の前頭部を模したお面を取り付けたのだ。
いまどきの新幹線は運転台が意外に低いけれど、0系や200・100系などは高運転台である。種車のキハ32はワンマン運転に適した低運転台で、この改造でも位置は変わっていない。最初に披露された予想イラストでは種車の前面に覆い被さるようにあの特徴的な「団子鼻」が描かれており、いったいどう処理するのかと思っていた。実車はまたまた予想の斜め上を行くもので、ボンネットの上半分は素通し、「光前頭覆い」の部分もメッシュで抜くことで、運転士の視界を確保している。運転台の表現も窓枠のみで、種車の行先表示を見通せるようになっている。
マニア受けは絶対しないだろうと思った車両だが、四国各地でお披露目ののち営業開始した同車の評判はなかなかのようだ。車内は「鉄道ホビー」の名の通り、棚に飾られた鉄道模型や床面に大きく描かれた古車両の形式図など鉄道一色で、客席の一角には0系が当初装備した転換クロスシートが4席配置されている (自由席)。

キハ32 3

キハ32 3

  • 予土線 伊予宮野下←務田 2014-4
  • D7100, AF-S NIKKOR 70-200mm F4G ED VR, ISO250

こんな面白い車両を撮りに行かずにいられるか! と思うのはいいけれど、この予土線という路線は東京からとてつもなく遠いのだ。県庁所在地の松山・高知までもともかく、そこまで航空機でショートカットしたところで、そこから車でまだ1~2時間はかかる。鉄道を乗り継ぐならなおさらのことだ。とはいえそれほど行きにくい場所であるために、豊かな自然が同線の走る四万十川流域にあふれていることも事実といえる。

同車の撮影にあたってもうひとつ問題になったのが、車両の向きだ。0系顔は連結器を隠すため、他車との連結を考慮して反対側は従来通りの「平たい顔」のまま。そして同車は0系顔を窪川に向けている。撮影の容易さ、光線の当たりでは窪川10:04発宇和島ゆき(12:17着) の4819Dが最適と思われたのだが――とはいえ現地に行くと予想通りにいかないのも常――、この列車だと平たい顔を先頭にして走ってくる。団子鼻を先頭に、かつ左向きで進行となると、宇和島13:10発近永ゆき4822D[土休日のみ]か、宇和島15:37発窪川ゆき4824Dしか撮れそうにない。そのうえ東方向へ向かう列車は北側から狙わざるを得ず、なんとか探り当てたポイントもピーカンだったら描写の厳しそうなところだった。
その本番に先立ちロケハンを兼ねて訪れた江川崎に近い緑濃い山間。エンジン音を響かせ、木々のむこうからファインダーにひょいと現れた単行の「0系」、しかも平たい顔に0系正面のイラストを描いたシュールな姿には思わず吹いてしまったけれど、改造内容は意外に(?)ちゃんとしたもので、屋根上は矢羽根形の検電アンテナ (平顔側にも!)、前面足もとはVラインに排障器も再現され、ヘッドライトは種車のシールドビームから導光する。後進時にフィルターをかぶせることで後部標識灯になるギミックも、「手差し」ではあるが本家通りだ。

キハ54 4ートラ152462

キハ54 4ートラ152462

  • 予土線 吉野生←松丸 2014-4
  • D7100, AF Nikkor 50mm F1.4D, ISO160

現在は(若井~)川奥信号所~北宇和島間の路線となっている予土線は、宇和島~近永間が1914年に軽便の宇和島鉄道として敷設されたもので、予讃線よりも先に開業した南予地区初の鉄道だった。1933年に国有化され、江川崎~川奥~窪川は1974年に開業し全通した。「鉄道ホビートレイン」は予土線の開業100周年、全通40周年を記念した車両でもある。宇和島~江川崎で軽便由来の曲がりくねった線路は、高知県に入ると一転して鉄道公団建設の高規格線路に変身し、四万十川の蛇行をトンネルと大型橋梁で一気に串刺ししていく。
日本最後の清流の風を肌で感じるトロッコ列車〔清流しまんと号〕は、屋根とベンチを設けた無蓋貨車トラ45000形 (トラ152462)をキハ54が牽引する。JRで一般客の乗れる二軸車両はこれと北海道のヨ3500くらい。ワム80000をトロッコ化し客車に編入した釧路湿原の「スタンディングトレイン」ハテ8001は昨年度除籍されたそうなので、JR線の二軸トロッコは同車が唯一となる。
2013年10月には水戸岡鋭治氏の手によってリニューアルが行われ、牽引車をキハ54 4専任とし、全身を山吹色にまとった新生〔しまんトロッコ〕として土休日に1往復運転される。



◆本記事が300回目でした。

この記事へのコメント

2014年05月24日 00:57
ご無沙汰しています。300回おめでとうございます!
四国の新し車両たちですね。昨年6月に私も四国に行き予土線も乗りました。このラッピングに変更前のホビートレインも。

0系型列車、これも予土線走っているんですね。発表時、ここまでやるか?!と思いましたが、走っている姿は意外とおもしろいかも!

先日JR西日本の新豪華寝台列車のデザイン発表がありましたが、JR四国は「伊予ものがたり」でしたっけ。「豪華さでは七つ星にかなわなけど、伊予灘の海がおもてなし」でしたっけ。

「さくらねこのPHOTO散歩」、利用していたBLOGサービスの終了のため、お引越ししました。新URLをリンクに入れておきます。
6月末までは、もとのアドレスでも自動的にとぶようです。

2014年05月30日 23:28
さくらねこさん こんばんは。
ありがとうございます。当人もすっかり忘れてスルーしそうになりました(苦笑)

「0系新幹線」、予土線を走っています。実際に足を運ばれたのでおわかりでしょうが、とても遠いところです(笑) それでも各地からファンや旅行者から撮りに、乗りに訪れているといいますから、魔改造も大成功なのでしょう。
四国ではこのあと登場する「伊予灘ものがたり」、こちらもレストラン列車になるんですね。〔トワイライトエクスプレス〕運行終了決定など、従来の寝台列車や食堂車は残念ながら終幕となりそうですが、「ななつ星」を筆頭に鉄道旅の総合的な魅力を探るうごきが各地で盛んになっていることは、素直に喜ばしいことといえますね。