Chop!

ある日の夕方、京王相模原線。到着した東京都交通局 (都営地下鉄)新宿線10-300R形 (←10-000形) のパンタグラフがついた中間車に乗り込むと、ドアが閉まりブレーキの緩む音ののち、床下から「ブィー」という音が聞こえ出した。サイリスタチョッパ制御器の作動する音がいまや懐かしい。都内ではチョッパ制御で走る電車もすっかり少なくなった。

10-311 東京都交通局

10-311

  • 京王相模原線 京王永山←若葉台 2009-3
  • D700, AF-S VR-Nikkor ED 70-300mm F4.5-5.6G, ISO500

チョッパ(chopper) とは原語chopの「切り刻む」という意味の通り、直流電流を超高速 (400~2000Hz程度) で切り刻む装置で、サイリスタやパワートランジスタ等の半導体で構成される。直流電動機の回転をサイリスタチョッパ装置で制御する車両がチョッパ制御車で、電機子(回転部)に流す電圧電流を調整し、おもに始動時に作用する「電機子チョッパ」と、界磁(回転部の周りを囲む磁界)電流を調整し高速域で効力のある「界磁チョッパ」に大別される。
前者の代表が帝都高速度交通営団(営団地下鉄: 現東京メトロ)千代田線の6000系、後者は東急8000系を筆頭に大手私鉄で採用例が多く見られたが、動作音も特徴的な前者が通常チョッパ車と称される。国鉄では電機子チョッパを201系・203系電車とEF67に採用した。

8108 東京メトロ

8108

  • 東武伊勢崎線 久喜←和戸 2009-3
  • D700, AF-S VR-Nikkor ED 70-300mm F4.5-5.6G, ISO200

乾電池とつなげばすぐ最高速で回転する小型モーターと違い、電車のような大出力電動機にいきなり高圧・大電流をかけることはできない。一般に電動機の起動には、許容される電流を越えないようにモーターにかかる電圧を上げていく必要がある。
抵抗制御は架線からとりこんだ電圧を直列につないだ抵抗器に負担させることで、電動機電流を許容電流以下にする方式である。単純明快だが、抵抗器が消費した電力は熱になって消える。これに対しチョッパ制御は電流の取り込み自体をスイッチでこまかく入・切し、必要な電力だけを取り込むことが可能だ。機械的なスイッチやリレーを数百Hzで動かすことは無理な注文で、電子的に瞬時にオン・オフが可能な半導体あってこその制御方式である。
6000系以降営団は電機子チョッパ制御を標準とし、界磁電流も制御できるAVFチョッパを有楽町線7000系、半蔵門線8000系に、界磁チョッパと統合した高周波分巻チョッパを銀座線01系で採用。一時は在籍車両の大半がチョッパ車であった。
学校の遠足で東急田園都市線の電車に乗ったある日、来たのが営団8000系だったわけだが、たまたまチョッパ制御器の近くにいたらしく、「ぷぅー」という妙な音がするだけでするする加速し「ぷぅー」と一定音で減速もする電車にはカルチャーショックを受けたものだ。それ以前に乗る鉄道といえば福岡市地下鉄直通前(非電化時代)の筑肥線ディーゼルカー、たまに西鉄電車か国鉄423系だったから。

8408 東京メトロ

8408

  • 東武伊勢崎線 久喜←和戸 2009-3
  • D700, AF-S VR-Nikkor ED 70-300mm F4.5-5.6G, ISO200

チョッパ制御の目的は、抵抗器をなくすことにより保守の省力化が可能なこと、電流を連続的に制御できることから粘着性能が高いこと(EF67はこのメリットを見込んだ)、そして抵抗器からの熱放散を抑えることにある。
抵抗制御車はブレーキをかけるときにモーターを発電機として利用し、その抵抗をブレーキ力として使用する発電ブレーキが主流である。しかしこのときせっかく作った電力も、抵抗器を通したら熱になるだけだ。とくに狭いトンネルで加減速を頻繁に行う地下鉄で、この発電ブレーキ抵抗熱による蓄熱が深刻になっていた。日照がなく地下水もあってほんらい涼しいはずの地下が、地下水位の低下や増発・増結でトンネルの自然冷却が全く追いつかなくなっていた。
電機子チョッパ車はブレーキ時に発生する電力もチョッパに通し、架線供給電圧より高くして電力を架線側に戻す「電力回生ブレーキ」を使用できる (界磁チョッパの回生制御は方法が異なる)。電力効率の良さはもちろん、抵抗で熱になっていたエネルギーをほかで加速中の車両に再利用できることが「省エネ車両」とよばれるゆえんだ (国鉄201系の試作車は「省エネ電車」と宣伝された)。
営団がチョッパ制御の6000系試作車を製造したのが1968年のこと、ただし国内で最初にチョッパ制御車を就役させたのは同年に登場した阪神7001形、これは加速のみにチョッパ制御を用いた試作車だった。試作車の試験を経て営団は6000系の量産を1971年に開始、以降 電機子チョッパ制御は地方都市でも建設が進んだ地下鉄での主流となっていった。

01-111 東京メトロ

01-111

  • 東京メトロ銀座線 渋谷←表参道 2011-8
  • D700, AF-S VR-Nikkor ED 70-300mm F4.5-5.6G, ISO250

1980年代に入るとVVVFインバータ制御の実用化がはじまる。半導体制御の進化系であるがモーターも無接点駆動の交流になった。大型直流モーターに必須の保守部品、整流ブラシが不要という点は保守コストの面でも大いにメリットがある (コストとは関連しないが、2011年3月に発生したJR西日本の電車間引き騒動は、ブラシ製造拠点の震災被害で供給が停止し、備品が底をつくおそれが生じたことによる)。このため大手私鉄は一気にVVVFへシフト、国鉄も界磁添加励磁制御から民営化後順番にVVVFを採用していく。
最後までチョッパにこだわった営団も南北線9000系でついにVVVFに転向、現在東京メトロでは経年の進んだ6000・7000系の廃車と並行して継続使用車のVVVF化を進めている。同じくこだわったトンネル冷房も直通区間つまり地上路線でサービスが大きく見劣りするため、地下鉄から抵抗制御車が一掃されたこともあって車両冷房式に切り替えられた。
チョッパ制御で製造された最後の車両は京都市交通局10系(京都市地下鉄烏丸線) と、この都営新宿線10-000系の最終増備車である。後者は軽量ステンレスの採用と前面デザインのマイナーチェンジを受けて印象も変わった。なお一番上、右に見える車両の形が異なるのは先頭車だけ後継10-300形デザインの車両で置き換えたためである。

この記事へのコメント

teru
2014年04月27日 13:58
こんにちは!SLサイドビューはItoプロに持っていかれましたね(;_;)。
それはさておき、いつも何気なく乗ってたりするメトロも、奥が深い、解説を読みながら今度乗ってみたいと思います(^_^)。
2014年05月23日 22:45
teruさん こんばんは。

往時の営団といえばチョッパ、チョッパといえば営団でした。機構はよくわからなくても、独特の音をうならせる電車に乗れば「あぁ、地下鉄だな……」と感じたものです。最近のVVVF車も作動音がどんどん静かになってきて(それはまあ時代の要請に沿ったものでしょうが)、どこか物足りないと感じることもあるものです。