ぞぞーとすするはなし

岡山を発車した快速〔マリンライナー〕は1時間弱で終着「さぬき高松うどん駅」(高松)へ。うどん県の玄関口を出ると正面に玉藻(たまも) 城とも呼ばれる高松城址があり、その堀 端にある高松築港駅から「ことでん」高松琴平電気鉄道の電車が出発する。高松築港~琴電琴平の琴平線、瓦町~長尾の長尾線、瓦町~琴電志度(しど) の志度線という3路線を営業し、15~30分間隔で走る電車は地域の気軽な足となっている。

ことちゃん
同社は2001年に事実上の倒産を経験している。これは子会社としていた百貨店「コトデンそごう」倒産 (「そごう」の経営破綻が引き金だった) の余波を受けたもので、民事再生法のもとで再建が図られ、2006年に再生計画が完了した。このとき、それまでの同社の略称「コトデン」が、ひらがなの「ことでん」に変えられている。
そのさなか突如登場したのが、イルカの「ことちゃん」。同社サイトの紹介に「大人の事情により」とまで書かれるキャラクターは、今はやりの「ゆるキャラ」とは一線を画している。というのも、倒産前のコトデンが地域からの信頼を失いつつあったという事情が絡んでいるからだ。「コトデンは、要(い)るか?」つまり琴電は地域に必要なのか? という自問から生まれたキャラクターだったのだ。
新米駅員として2002年から勤務を開始したことちゃんは、同社自体の再生への取り組み、サービス改善策なども手伝って人気が定着。四国初のICカード乗車券「IruCa」の名前およびカード図柄に登場した。さらに、さきごろ行われた「全国ご当地キャラ総選挙」にも出馬して地区予選を勝ち抜き、本選でもみごと得票3位を獲得した。
(右上: 琴電琴平駅改札付近には駅員手作りのことちゃん・ことみちゃん人形が、月替わりで乗客を迎える)

当然のこと、旅客の目に触れるあらゆる場所にことちゃんは登場する。そのもっとも大きいものが電車・バスへのラッピングだ。長尾線には「ことちゃん遍路号」、志度線は「ことちゃん源平号」が走り、琴平線は「ことちゃんこんぴら号」のあと2011年から「ことちゃんひやく号」。「ひやく」とは、同年に開業100(ひゃく) 周年を迎えたことを記念し、さらなる飛躍(ひやく) を願ってつけられたもので、沿線の名所旧跡とことちゃん、ことみちゃん (2003年に恋人として登場、2011年に結婚) が車体いっぱいに装飾されている。
……で、どのあたりが背筋の凍る話なの!? と思った方。タイトルをもう一度ご覧ください。

1204 高松琴平電鉄

1204

  • 高松琴平電鉄琴平線 羽床←滝宮 2013-8
  • D7100, AF-S Nikkor ED 80-200mm F2.8D, ISO160

高松方1204の後部には、さぬきうどんをすすることちゃんのどアップ。「ぞぞー」という擬音がまたツボに入ってしまい、個人的に同編成は「ひやく号」というより「ぞぞー」と呼んでしまう。ちなみに大好物は「釜玉 (かまたま)」とのこと。ぽっこりしたおなかはうどんの食べ過ぎ、先の「総選挙」でも「うどんをもっとおいしくたべます」とある公約の一方「そのうちやせます」……
ことでんも他社出身車が活躍する「動く車両博物館」。1200形はもと京急700形で、18m車としては希有な4扉車である。1,435mm軌間で車両寸法が似ていることもあって京急からの譲渡車両は多く、ほかに先代1000形、先代600形が走っている。かつて一部駅でホームとの隙間が大きく危険であったため、3扉車は中央扉を撤去する改造を受けていたが、改良工事が済んで以降はそのまま入線するようになっている。
琴平方1203にはパートナーのことみちゃんが「もっ」とショートケーキを食す。ケーキ屋さんでアルバイト中、ぽっ (都合により省略) ……閑話休題、この「ひやく号」は当初1年間運行の予定が翌年まで延長、そして現在もなお運行中。土休日の運行日とダイヤは同社サイトの特設ページで公開されている。

1203 高松琴平電鉄

1203

  • 高松琴平電鉄琴平線 羽床←滝宮 2013-8
  • D7100, AF-S Nikkor ED 80-200mm F2.8D, ISO160

琴平といえば「こんぴらさん」でおなじみ金刀比羅宮(ことひらぐう)。ことでんはその前身を金比羅電鉄→琴平電鉄とし、金刀比羅宮への参詣客輸送を主目的に敷設されたが、ほかにも坂出から琴平急行電鉄 (1930-1944休止)、多度津・坂出 (善通寺経由) から琴平参宮電鉄 (1922-1963) が路線を延ばし、JR四国 土讃線の前身である讃岐鉄道 (→山陽鉄道→官有鉄道→国鉄) とあわせ、4路線が小さな門前町へ乗り入れていた。
江戸時代、神仏への参詣は庶民に許された唯一の旅行だったが、同時に大変な苦労を伴うもので、金刀比羅宮にも犬を代参させた「こんぴら狗」の逸話が残る。そんな参詣の願望を果たすものとして、鉄道など交通機関が門前まで伸びてくるのはある意味当然で、伊勢神宮や出雲大社への鉄道敷設も然り、宮島航路もその類型といえる。

1205 高松琴平電鉄

1205

  • 高松琴平電鉄琴平線 羽床←滝宮 2013-8
  • D7100, AF-S Nikkor ED 80-200mm F2.8D, ISO160

車両の更新・冷房化もすすめられ、戦前生まれの車両が走っていた長尾線も2007年に置き換えが完了した。なお旧型車のうち4両が動態保存され (2009年に近代化産業遺産に認定)「レトロ電車」として毎月1回の特別運行を実施しているが、ことしは「うどん県・時間旅行物語」キャンペーンへの協賛企画として、7月6日~12月1日までは毎土休日と大幅に運転日が拡大されている。



「ことちゃんひやく号」に描かれる名所は? →こちらから (ちなみに反対側も同じ絵柄です)

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