セクション-2

海沿いに水田がひろがる熊本県南部の八代平野。畳表の材料であるイグサの産地としても知られる。この真ん中を抜ける鹿児島本線には、かつて〔つばめ〕→〔リレーつばめ〕が多数設定され、八代まで最高130km/hで疾走する787系が頻繁に見られたが、九州新幹線全通後は肥薩線の〔九州横断特急〕と〔SL人吉〕の他は815・817系の2両編成が行き交うローカル区間になった。遠くにその九州新幹線の高い防音壁が望め、列車は乾いた音と屋上を見せて通過していく。
お目当ての列車を撮って次の場所へ……と思い、車に戻ってふと線路を見やると、架線柱に赤斜線のついた四角い白看板がくくりつけられているのに気づいた。交流異相区分セクション (交交セクション) の位置を示す標識だ。直線ではだいたい40~50mおきにある架線柱もセクション部分は短くなっているが、1両入りそうな気がしたので、つぎの817系がセクションを通過する瞬間を狙ってみた。817系は筑豊・篠栗線電化時に投入された転換クロスシート車であるが、福岡都市圏での混雑緩和を目的としてロングシート2000・3000番台を新製配置し、捻出した0・1000番台で各地区に残っていた国鉄形 (717系など) を置き換えている。

クモハ817-13

クモハ817-13

  • 鹿児島本線 小川←松橋 2013-3
  • D700, AF-S Nikkor ED 80-200mm F2.8D, ISO250

交流電化やセクションのメカニズムについては私自身門外漢なほうだから、詳しいことは他所におまかせするとして、とにかく交流電化区間では変電所ごとに波形の位相が異なり、さらに変電所を境に両側で波形の位相が90度ずれるのが普通である。位相の違う交流波形が混じらないように、変電所付近とき電区分所にはトロリ線のかわりにFRP製の絶縁架線「インシュレータ」が取り付けられている (拡大。2つ見えるのはここが複線区間のため)。
この場所を運転士に示すのが、白地に赤斜線の交交セクション標識である。六角形に赤白斜めストライプという派手な交直セクションほどではないが、取り扱いに注意を要するため (運転士にとっては当然憶えているべき事柄だが) 遠目にはっきり見える標識だ。交直・交交セクション自体は架線の下側が白くなっていること、吊架線にも碍子 (がいし) など絶縁体が取り付けられていることなどで、標識が見えなくてもセクションの場所は容易に判別できる。

電気機関車や電車はこの標識 (実際にはその手前にあるセクション予告標識) でノッチオフし、列車の最後尾が通過するまで力行してはいけない。架線 (き電線・トロリ線) は両位相が混じらないように絶縁されているが、消費電力の大きい力行状態でパンタグラフがセクションに入ってしまうとアークが発生し、パンタまたは架線を損傷するおそれがあるからだ。いまでは「なつかしの」といえるかもしれない鉄道ゲーム「電車でGO!」でも、在来線交流区間ではセクション通過が再現され、ノッチオフすればボーナス加算、逆にここで停止してしまうと大減点となっていた。

426-3

426-3

  • 奥羽本線 羽前中山→かみのやま温泉 2008-11
  • D700, AF-S VR-Nikkor ED 70-300mm F4.5-5.6G, ISO400

新幹線区間を疾走した 400・E3系は、福島・盛岡駅に到着すると2つ上げていたパンタグラフの一方を降ろし在来線へ向かう。いまの新幹線車両は高圧母線が編成全体に引き通され、2個のパンタも電気的につながっている。この状態で在来線形のセクションに突入すると母線経由で両側が短絡してしまうため、在来線では1つのみ使用することになっているのだ。EF81などの交直流電機、かつての485・583系では交流側最後の停車駅で2つめのパンタを上げる操作をするが、このまま交交セクションをまたぐと同種の事故になるので、交流集電時は片方が電気的に切り離されるようになっている。
力行時間が大半である高速鉄道での交交セクションはどう扱われるのか? 外国では手動扱いとする例が多いが、新幹線では人の注意に頼ることで起きる事故を防ぐ見地から、セクション通過の取り扱いも自動化されている。交交セクションのかわりに両側の位相区分から受電できる区間が設置され、列車がこの区間にいる間に変電所の回路が操作されて位相が切り替わる。通過と切り替えは一瞬で済むが、このとき車内でエアコンの運転がいったん停まるので (これは在来線でも同じ)、興味のある方は次回ご乗車の際に耳を澄ましてみては。

この記事へのコメント