「デ」と「ヲ」

秩父鉄道の電車に乗って熊谷・寄居から三峰口へ向かうと、秩父駅に近づくとともに斜面を大きくえぐり取られた山が進行正面にそびえ立つのが見えてくる。武甲(ぶこう) 山といい、石灰岩の大鉱床を持つ山である。このため古くから しっくい・セメント等の原料となる石灰石の採掘が行われ、ふもとの影森・武州原谷(貨物駅)から三ヶ尻(貨物線) へ石灰石を輸送する貨物列車が走っている。C58 363牽引〔SLパレオエクスプレス〕がファミリーや団体客には人気だが、いまや貴重品となった車扱貨物列車の運転も秩父鉄道のひとつの顔である。

夏の盛りに入った7月、高崎・信越線での撮影後、秩父鉄道へ寄る。この日はクルマなので、いつもと違った場所で〔パレオ〕を撮ろうかと、検討していたポイントへ赴いた。
まずは練習と普通電車を待っていると、近くの踏切警報機が鳴り出した。こんな時間に来る電車はないはず……と思っていたら、左の方から野太いつり掛け駆動音を響かせ、青い車体が近づいてきた。デキだ!

画像

デキ105

  • 秩父鉄道 小前田→永田 2012-8
  • D700, AF-S Nikkor ED 80-200mm F2.8D, ISO250

「デキ」の形式呼称が電気機関車からきていることは間違いないだろう。国鉄電機ならEDと呼ぶ4軸駆動機で、前面デッキを持つ古典的な姿だ。三岐鉄道・大井川鐵道 (SL補機) でも同じ形態の電機が活躍しているほか、羽生で接続する東武伊勢崎線にも2003年まで電機牽引 (重連) の貨物列車が走っていた。西武鉄道も西武秩父線~池袋線を使用した石灰石製品 (セメント) 輸送が1996年まで行われ、こちらにはEF65を元に設計された私鉄最大のF級電機E851がその牽引に当たっていた。
貨物列車運転のため、秩父線の構内有効長はローカル私鉄ながら比較的長い。この余裕は、線路がつながっていない東武鉄道の伊勢崎線 (羽生) と東上線 (寄居) の間で車両を輸送するときにも役立っていて、ときおりデキが10両編成の電車を牽引する光景が展開される。
貨物列車は20両でも単機牽引だが、重量のかさむ積車 (上り: 影森→三ヶ尻) は勾配に関してはほぼ下りなので、牽引力に余裕はあるのだろう。同線の最急勾配は意外なことに上り列車の浦山口→影森で、この区間に貨物列車は走っていない。

ヲキフ132-ヲキ196 秩父鉄道

ヲキフ132-ヲキ196

  • 秩父鉄道 小前田→永田 2012-8
  • D700, AF-S Nikkor ED 80-200mm F2.8D, ISO250

デキに続く20両の貨車はヲキ100・ヲキフ100。「ヲ」の称号を持つ鉱石車は一部私鉄のみに使われ、現役なのはここだけだ。由来については、「鉱石」(コヲセキ) あるいは英語の "ore (オール)" からきているといわれる。
国鉄・JRの形式ではホッパ車「ホキ」にあたる車両だが、そのシルエットと黒い車体はかつて筑豊で走っていた二軸石炭車「セム・セラ」を彷彿とさせる。荷積みは上から、荷下ろしは車体底部(レール間)から行う。左側ヲキフは緩急車で、積載部の下に車掌室を設けてあるが、現在はJR線と同じく車掌乗務は省略され、編成端に赤丸反射板を取り付けている。
貨車において「キ」は荷重25t以上を示す記号 (ヲキ・ヲキフは35t積) だから、同じ文字を使っていてもデキとヲキで意味はまったく異なる。ちなみに秩父鉄道にはかつて「テキ100」という車両 (テ=鉄側有蓋車) も在籍していた (三峰口で静態保存中)。

デキ201 秩父鉄道

デキ201

  • 秩父鉄道 明戸←大麻生 2011-11
  • D700, AF-S Nikkor ED 80-200mm F2.8D, ISO200

全盛期に比べれば取扱品目やその量は減っており、稼動数も減少している秩父鉄道のデキ。そんなデキのもうひとつの役目は〔パレオ〕回送列車の牽引だ。秩父線旅客車の車庫・広瀬川原車両基地 (ひろせ野鳥の森~大麻生間) とSLの起終点である熊谷間を、C58を最後尾に連結したまま走行する。デキ201号はその専任として、専用客車の12系にあわせてダークグリーンに金帯を締めている。ただし12系のほうは今期SL25周年記念として赤茶色へ変更した。
デキはSL故障の際の代替機となるほか、ときおりイベントとしてプッシュプル~4重連で12系客車を牽引してきた。昨年秋はC58が全般検査に入るため運転終了日が繰り上がり、11月にはEL重連またはプッシュプルで〔ELちちぶ〕〔ELみつみね〕を運転。上の写真はそのとき熊谷方に連結されたデキ201で、同機の強烈な個性である台車のL型軸梁が見て取れる。

大宮総セでリフレッシュしてきたC58だが、撮影後の8月に広瀬基地構内で脱線事故を起こしてしまい、ふたたび長期休暇となってしまった。このため秩父鉄道では代替としてデキ牽引の〔ELパレオエクスプレス〕を運転、10月7日には5重連 (パンタグラフ10連続!) で熊谷~秩父間を運転する予定となっている。

この記事へのコメント

2012年10月16日 06:38
こんにちわ
すっかりご無沙汰してしまっています

秩父鉄道は、石灰石運搬の貨物も走っているのですね。ホキも見られるなんて魅力的です(笑)デキの車輪、短めの車体ですけど、足回りはごついですね。シキやC61、C62の炭水車みたいです。
デキ5重連、鉄道関係のサイトであちこちで見ましたが、見事でしたねー
2012年10月29日 00:29
さくらねこさん こんばんは。こちらこそご無沙汰しております。

秩父鉄道は以前から貨物でも知られていました。なのになかなか撮る機会がなくって…(苦笑)
黒い車体に山盛りの積荷は、石炭列車を彷彿とさせる重量感のある貨物列車です。牽引するデキも、炭水車なみの短い車体で独り引っ張る姿は頼もしいですね。
イベントなどで見られる3~5重連は写真などでその迫力を知っているんですけれど、これまた撮る機会に恵まれず。5重連、見てみたかったですね。