サインはV

首都圏の近郊区間電車に連結される二階建てグリーン車。平日ラッシュ時はもとより、土休日でも快速〔アクティー〕や湘南新宿ラインなど、始発駅から乗車を待つ列ができることはめずらしくない。車内整備が終わってドアが開くと、待ちかねた乗客はこぞって二階席を目指す。私自身も二階席に乗ることがいちばん多い。
国内の鉄道でもっとも多くの二階建て車両を走らせているのはそのJR東日本だが、諸外国のものがそうであるように主目的は座席定員の増加である。たとえばE215系とか新幹線"Max" 自由席二階の横3-3配列などにそれは顕著に現れ、そしてとかく批難の標的になりやすいところ (空いていれば非常に快適なんですが)。
もうひとつは高い視点からの眺望を得る目的。JR東でも251系〔スーパービュー踊り子〕はそれに類するが、国内ではじめて走ったのはじつに明治期にまでさかのぼる大阪市電の二階建て路面電車。高速電車としては、近畿日本鉄道(近鉄) の「ビスタカー (VISTA CAR)」10000系が元祖であった。

初代ビスタカーは1958年に1編成7両が製造され、外側4両が平屋ボギー車で、両端に運転台を持つ3車体連接車をはさんだ。前後2車体の屋根部をガラス張りの展望座席「ビスタドーム」とし、階下にも座席を配置。台車上にデッキを置き、その間を二層構造にする構造はサロE231・233や新幹線Maxとほぼ同じで、階上展望席はアメリカの展望ドーム型客車にならったものという。世界初の二階建て「高速電車」ではあるが、二階建て編成は自走できず、実質3両の客車を前後4両(または2両)の動力車でプッシュプルしていたとも取れる。
この試用結果を受け、翌年から増備された二代目ビスタカー10100系は自走可能な3車体連接車とした。階上はドームとはせず、いまの二階建て車とほぼ同じスタイルになった。

モ30213 近鉄

モ30213

  • 近鉄大阪線 三本松←赤目口 2009-7
  • D700, AF-S VR-Nikkor ED 70-300mm F4.5-5.6G, ISO200

1978年に登場した三代目ビスタカー30000系はボギー車4両編成となり、前後2両が平屋の動力車、中央2両が二階建ての付随車。中間車サ30100, 30150 の座席はほとんど二階へ配置し、中央に扉を設けてその両脇にサロン風の階下席 (2010年からはグループ利用専用席となっている)、さらに両側は機器室とした。二階建てといいつつ二層構造になっているところがほとんどなく、バスでいう「スーパーハイデッカー」のようなものである。
かつてのフラグシップも経年が進み、その後登場した新型車両に見劣りする点が増えてきた。そこで1996年から車内外のリニューアルが行われ、愛称も「VISTA EX (ビスタ・エックス)」となった。外観も大きく変化しており、二階席部分は根本から作り直され、小窓のならんだ二階窓は連窓ふうの大型窓に変貌、通路部の天井もさらに高くされた。塗装は白が追加された軽快なものとなり、登場当初中間車にあった「V」のカットラインは上写真の通り先頭車に移されている。Vというよりむしろ"√"に見えるような……。

サ30151 近鉄

サ30151

  • 近鉄大阪線 三本松→赤目口 2009-7
  • D700, AF-S VR-Nikkor ED 70-300mm F4.5-5.6G, ISO200

ビスタカーはながらく近鉄のみならず私鉄特急を代表する車両だった (10100系は第3回、30000系は第22回 鉄道友の会ブルーリボン賞に選出) から、この30000系も大阪・名古屋~伊勢志摩を筆頭とする観光路線に重用された。時刻表では充当列車に「V」のマークをつけてアピールし、それは現在も続いている (表記外の列車もビスタカーの場合あり)。ちなみにもうひとつの花形、大阪~名古屋ノンストップ特急 (名阪甲特急。現在は津に停車) は、いまでこそ「アーバンライナー」が6~8両で疾走しているが、新幹線開業後には利用が激減し、わずか2両編成で走っていた時期もあった。

路線網が広く煩雑な近鉄線をのりつぶす際には、到達時刻が早くなる、のりかえの手間が省ける、なにより快適という理由から特急を何度も使った。代表車両アーバンライナー・伊勢志摩ライナーからAceまで、たいていの特急形車両に乗ってきたけれど、このビスタカーにはまだ乗れていなかったりする。
リニューアルの前に一度だけ、家族旅行という形で乗る予定があったのだが、ちょうど出発の日に台風が上陸して旅行が取りやめになった。それ以来、行きたい方向と会わなかったり、京都駅で新幹線から乗り換えようと向かったそのとき発車していったり……と、"VISTA EX" となった今でもなかなか縁が遠い。はたして乗る機会は巡ってくるのだろうか?

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