ステップからフラットへ

半年ほど前の話になるが、南武線の稲城市内で行われている連続立体化事業 (高架化工事) のうち下り線部 (川崎→立川) が昨年末に完成、供用開始を前に施設見学会が行われた。使用開始直前のホームと線路も見学できるということで、駅の線路へおおっぴらに降りられる機会はそうそうないから……と足を運んでみた。
受付でヘルメットを借り、真新しいプラットホームの端からこれもふだん通ることはない作業用階段を通ってお目当て(?)の軌道敷へ。上からだと大した落差に感じないけれど、降りてみればホーム設備は見上げるような高さだった。

大都市圏「国電区間」のホーム高さは1,100mm (レール上面から: 以下同様) が標準とされる。大手私鉄もこれと同等で、成人男性なら胸~腰のあたりか。でも実際の「地面」である軌道敷 (路盤) までの距離は、これにレールの高さ・枕木や道床の厚みが加わり、さらに道床はバラスト (砕石) で足元も悪い。だから、電車とホームの隙間に物を落としたとき、電車が出たばかりだからと安易に線路へ降りるのはとても危険である。

クモハ701-1026

クモハ701-1026

  • 東北本線 南仙台←名取 2009-10
  • D700, AF-S Nikkor ED 80-200mm F2.8D, ISO400

地方 (おもに交流電化区間) へ行くと、市街地の主要駅でもホーム高さは90cm台 (920mm) になる。それから離れたローカル区間になると70cm台 (760mm) まで下がり、そんな駅では台車とか気動車のエンジンも観察できるほどだ。車両床面との高低差が大きいので乗降口にはステップを設けてあるものの、ホームからだとステップ・客室と2段を上がらなければならない。電車運転が広まるまでは大幹線でもホームの高さは低く、だから石積みで作った70cmホームから90cm、さらに110cmへと積み増しした痕跡はいまでも多くの駅に残っている。
いっぽうで車両の床面は1,200~1,300mmが長らく標準だった。電車や気動車では搭載機器のスペースも確保する必要があり、そう簡単には下げられない。連結器の高さが決まっていて (上下中心880mm) 貫通路はその上に通さなければならないことも、隠れた制約といえる。
しかしVVVFインバータ制御の普及などモーターや制御機器の小型化が進んだことで、車体底面をこれまでより下げることができるようになった。車輪径を小さくすれば同じ速度を得るにもより高回転が必要だが、広い範囲で性能を発揮できる交流モーターの採用も大きく貢献している。たとえば103系は1,200mm、113系は1,225mmであったのが、E231系量産車は1,165mm、E233系では1,130mmまで下がってきて、ホームと車両床面の段差はきわめて小さくなった。

クモハE721-36

クモハE721-36

  • 東北本線 南仙台←名取 2009-10
  • D700, AF-S Nikkor ED 80-200mm F2.8D, ISO400

そういった技術をさらに進化させ、地方の低いホーム区間でのバリアフリー化を成し遂げたのが、JR東日本のE721系交流電車である。721系 (JR北海道) と数字上の重複系列になったが、まったく関連はない。
他系列と比べるまでもなく、一目でわかる腰の低さというか短足ぶりが同系最大の特徴。車輪径810mm、客室床面高さは950mmで設計されていて、客室はフルフラットになった上にホームとの段差も3cmまで縮小した。屋根高さはそれほど低くないため、中に入ると天井の高さが印象に残る。2両編成は半永久連結のため各車後位は低床だが、運転室部は従来どおりの床面になっているため、編成間を行き来する場合は一段上がることになる。

SAT721-103 仙台空港鉄道

SAT721-103

  • 東北本線 南仙台←名取 2009-10
  • D700, AF-S Nikkor ED 80-200mm F2.8D, ISO400

東北・常磐・仙山線で使用される0番台、仙台空港アクセス線むけの500番台および仙台空港鉄道SAT721系 (共通仕様) があり、後二者は室内に大型荷物置場が設置される。いずれもホーム面1,100mm高さの区間での運用は考慮されない。もとより交流専用電車だから入ってくることがないのだ。
同系の登場によって、地方の鉄道路線でも十分にバリアフリー対応が可能なことが証明され、E721系・SAT721系は2008年に第48回鉄道友の会ローレル賞を受賞した。同様のコンセプトで設計製造されたのが、今般電化開業した札沼線 (学園都市線) 向けの733・735系電車。こちらも低床化 (1,050mm) によってステップレス・バリアフリー化が実現されている。

この記事へのコメント