デンは急げ?

「あの……電話かけられます?」「ないんですよ、この列車には。電報は打てます。ライシンシをお持ちしましょうネ」
鉄道ジャーナル「ドキュメント列車追跡 日本海に羽ばたく」(1973年1・2月号 文: 竹島紀元) にある、特急〔白鳥〕(大阪→青森: 米原経由) の乗客と専務車掌とのやりとりだ。列車無線も整備される前の話だから、車内から何か発信するには電報を使うよりなかった。それも直接ではなく、カナ書きの通信用紙 (頼信紙: らいしんし) を停車駅で駅員に渡し、緊急の場合は通信筒を通過駅に落として連絡させていた。

いろいろな節目が交錯したJRグループダイヤ改正もひとまず過ぎ、さらに年度越しにかけていくつか転機が待つ (ほとんど話題にならないがJRグループ発足25周年だ)。〔こだま〕の車内販売が東海道区間でも廃止されたほか、「周遊きっぷ」の大幅整理――最近まったく使わなくなった――を含む企画乗車券の再編などが行われるが、もうひとつ挙げておきたいのは在来線車内電話の終了。3月31日をもってJR東日本の列車内公衆電話が廃止され、新幹線も福島~新庄・盛岡~秋田間でサービス停止となる。
新幹線 (フル規格) 以外の車内電話は、NTTドコモ提供のPDC網「ムーバ」を使用した携帯電話の端末である。ほかのケータイと同じく基地局と無線接続するため山間部やトンネルでは使用できないし、外部から呼び出すことも不可能だ。いっぽう新幹線は、開業時は専用基地局との空間波伝送、その後線路と並行に設置した LCX (漏洩同軸ケーブル。軌道脇に延々続くぶっといアレだ) を経由する専用回線が整備され、今後もサービスは継続する。2004年までは交換手経由で特定列車への呼び出しもできた。山形・秋田新幹線は電話も新在直通で、福島・盛岡駅で両方式を切り替えている。
1990年代、車内サービスの一環としてJRはもちろん私鉄特急、はたまた高速路線バスにも公衆電話 (テレホンカード専用) が設置されていったが、近年の新車に搭載されることはなくなった。既存車についても利用停止・撤去が相次ぎ、2012年初のJR線で残っているのはJR東日本の特急と789系〔スーパー白鳥〕、〔北斗星〕スハネ25 (ミニロビー) だけになっていた (つい先日乗った小田急EXEでまだ使えたことに驚いたり……)。廃止理由はケータイ普及による利用の激減があるが、それ以前に3月いっぱいでムーバが停波してしまうからだ。

9111 北総鉄道(千葉ニュータウン鉄道)

9111

  • 京成本線 青砥→京成高砂 2011-1
  • D700, AF-S VR-Nikkor ED 70-300mm F4.5-5.6G, ISO200

車内電話のほとんどは特急に設置されたが、普通列車向け車両に設置した例が2つある。ひとつはJR東海の311系電車、もうひとつが1994年にデビューした北総鉄道9100形 "C-Flyer"。
現在北総線として認知されている小室~印旛日本医大間は、千葉ニュータウンを開発・分譲する住宅・都市整備公団 (現・UR都市機構) が建設した路線で、京成高砂~小室間を建設した北総開発鉄道、さらに京成線~都営浅草線~京急線への相互直通運転を行う。独自の車両も保有することとなり、2000形 (都営線直通で9000形に改称)、そして9100形が製造された。住都公団→都市公団 の事業見直しにより車両と施設は受け皿会社の千葉ニュータウン鉄道へ譲渡され、管理は社名を変更した北総鉄道が行っている。
北総線には「ゲンコツ電車」と呼ばれた7000形をはじめ、京急から1000形をリースしていたり、第一期開業時は新京成電鉄と相互直通したりと、さまざまな形態の車両が走ってきた。いま同区間を代表する電車は成田スカイアクセスとして走る新スカイライナーAE形だが、9100形もそれらに劣らずユニークな形状をして、遠くからも一目でそれとわかる。京成・都営と共通規格である18m級3扉車体で、両開きドアは窓を中央に寄せた独特な姿をしており、室内は間柱を黒くして一枚窓のように見せている。JR西日本207系先行製作車にもおなじ意匠が使われた。
色の塗られた扉は、先頭車の水色が車椅子スペース、それ以外の黄色は進行方向へ座るクロスシート(固定) があることを示す。公衆電話は第1,2編成の3,6号車端部に設置されていた。下写真の右隣車両がそうで、間仕切りと屋根上のアンテナに面影が残る。

9117 北総鉄道(千葉ニュータウン鉄道)

9117

  • 京成本線 青砥→京成高砂 2011-1
  • D700, AF-S VR-Nikkor ED 70-300mm F4.5-5.6G, ISO200

新幹線や特急の場合なら停車駅やその時間も少なく、冒頭のような急ぎの場合にも対処できるという点で車内電話の価値はあった。そうではない通勤電車に電話を置いたのは、いわゆる「カエルコール」での利用を狙ったものではないか。もっとも走行中にそこまで行けるということは、どこぞの路線みたいな混雑ぶりではないことも示しているわけだが。
とはいっても設置されている編成が運行本数を考えればきわめて少なく、地下鉄やトンネル (北総線には結構多い) で通話できないとあっては、実用には程遠かった。携帯電話が爆発的に普及して設置の意義も薄れた電話はわずか3年で撤去され、2000年増備の第3編成は当然ながら設置していない。もう一方の311系は、JR東海の他車を含め2007年に廃止されている。
考えてみれば公衆電話とはすっかり縁遠くなったものだ。携帯電話所有の有無にかかわらず車内の電話を使った記憶がないし、電報もこれまで一度使っただけ。そもそもケータイを持っていても、通話すること自体ほとんどないんだなあ……。

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