蒼の時間

東京メトロ千代田線。常磐線から直通して都心へ向かい、大手町・日比谷・霞ヶ関そして国会議事堂前と、文字通り千代田区主要部を貫く基幹路線のひとつ。終点の代々木上原では小田急小田原線に接続し、一部電車は多摩急行として小田急と相互直通運転を行う。
その小田急といえばすぐ連想されるのが「ロマンスカー」。箱根への観光特急として広く知られるが、じつは通勤列車としての役割も担っている。1967年に夕刻の新原町田 (現・町田) 停車を開始し、特急券を買えば定期乗車券でも利用できるようにしたのがはしりだった。現在、夕方の通勤時間帯には新宿発1時間3~4本の〔ホームウェイ〕が設定され、ゆとりの空間と時間が手頃な値段で手に入るとあって、平日はそのほとんどが満席で発車していく。国鉄がこれを見習い、上野着特急の回送列車を使って1984年に上野→大宮で運転開始したのが〔ホームライナー〕だった。
地下鉄からの着席通勤需要にも応えるため、小田急は2005年に千代田線直通専用特急車の開発を決定、2008年にデビューしたのがMSEこと60000形電車。狭義の「地下鉄」で料金を要する列車が走るのは初めてのことである。

クハ60551 小田急

クハ60551

  • 小田急小田原線 伊勢原←愛甲石田 2011-11
  • D200, AF Nikkor 50mm F1.4D, ISO100

MSEとは Multi Super Expressの意。デザインはVSE (50000形) を監修した建築家の岡部憲明氏が続いて手がけた。地下鉄の狭断面トンネルにおいては編成両端の貫通路または非常扉設置が必須であること、乗り入れに関するいろいろな制約から展望席構造にならなかったが、前頭部はVSEのイメージを引き継ぎ、内装にもVSEとの共通点を多く見出すことができる。最近ではよく目にするようになったAEDを、はじめて列車内に装備した車両としても意義深い。
車体塗色は同車が「フェルメール・ブルー」と呼ぶメタリックな青。画家フェルメールは作品に鮮やかな青色を好んで用いた。腰にはVSE同様、「小田急ロマンスカー」のシンボルカラーであるオレンジバーミリオンの細帯。連接車ではなく、前々代の EXE (30000形) と同様の6両+4両分割組成で最大10両編成となるが、各7本ずつ製造されたEXEとは違って6連のほうが製造数が多い。
使用列車は千代田線直通の箱根特急〔メトロはこね〕〔メトロさがみ〕そして夜間下りの〔メトロホームウェイ〕。現在は新宿発着列車の設定がないが、他編成が整備入場中の代走または観光シーズンの臨時列車として入線することもある。
ロマンスカー車両は鉄道ファンの支持が高く、SE車から代々ほとんどの形式が鉄道友の会ブルーリボン賞を獲得してきた。MSEも2009年第52回の受賞車両である。EXEは受賞を逃したが当該年のBR賞は「該当なし」で、車両としての得票数はトップだったそうだ。

デハ60401 小田急

デハ60401

  • 小田急小田原線 新松田←渋沢 2008-10
  • D700, AF-S VR-Nikkor 70-300mm F4.5-5.6G, ISO200

地下鉄線を有料特急が走るというだけでも珍しいものだが、もっと変わった列車があった。臨時特急〔ベイリゾート〕。この列車は千代田線の霞ヶ関から分岐する地下連絡線を通って有楽町線へ乗り入れ、新木場まで足を伸ばした。そこから京葉線に乗り換えて隣駅が葛西臨海公園、2駅先が舞浜である。
この連絡線は、有楽町線の初開業区間 (池袋~銀座一丁目) に本格的な検修設備がなく、全検などを千代田線の綾瀬車両基地で行うため回送線として建設された。地下トンネルの途中分岐なのでその存在は一般にほとんど知られることがなく、旅客として通過できるのは同列車が最初だった。
名前の通りTDRへのアクセス列車という位置づけなのだが、時間帯の問題があったうえに有楽町線のホームドア設置工事が始まるため2011年秋で設定を終了、今般3月のダイヤ改正で廃止となってしまった。一度乗ってみたいとは思っていたのだが……。

60000形は信号保安装置に千代田線ATCだけでなくJR東海のATSも装備しており、このためMSEは近々御殿場線へ乗り入るという噂が立っていた。はたして今改正で、 RSE (20000形) と371系 (JR東海) で運転していた〔あさぎり〕(新宿~沼津) をMSEに置き換え、平日1往復減のうえ新宿~御殿場間に短縮される。御殿場~沼津間に限って自由席が1両設定されていたものの利用が振るわず、実際に先日利用したときもガラ空きだったので、区間廃止もやむを得ない。
その一方で江ノ島線〔えのしま〕にも〔あさぎり〕と併結の形でMSEの定期運行が開始されるため、3月以降同形は小田急の車両が走る区間のすべてに顔を出し、フラグシップのVSEを補完して文字通りマルチな活躍を見せることになる。

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