1×2は……

豊橋から飯田線電車で5分、下地(しもじ) という小さな駅に降りる。同駅と隣の船町は普通列車でも半数が通過し、両駅に停車するのも初めてだった。ホームの先端は隣を走る東海道本線、とくに上り列車の撮影地としてよく知られているが、今回は背を向けて豊橋方の豊川鉄橋に向かった。

飯田線は豊橋から飯田を経て長野県の辰野(たつの) までを結ぶJR東海の路線だが、もともと4社の私鉄路線 (豊川鉄道・鳳来寺鉄道・三信鉄道・伊那電気鉄道) が戦時国有化で統合したもので、延長195.7kmに駅数94という都市近郊私鉄なみの駅間距離。時刻表の線路地図でも、駅を示す「○」が数珠つなぎだ。そんな路線でありながらいまだに全線を走りぬく普通列車があり、車窓の変化に富むことはもちろん、いわゆる「秘境駅」も数多く、各方面の「鉄」に好まれる路線といえる。

モ1133 名鉄

モ1133

  • 名鉄名古屋本線 豊橋←平井(信) 2012-1
  • D700, AF-S Nikkor ED 80-200mm F2.8D, ISO250

と書いておいてなぜ名鉄 "パノラマSuper" が出てくるのか? それはこの場所が名鉄名古屋本線と線路を共用する区間だからだ。先に開業した豊川鉄道の単線に、名古屋鉄道の前身・愛知電気鉄道がもう1線を敷設、後者が開通した1927年から豊橋~平井信号場 (下地駅の先にあり、飯田線は小坂井駅構内扱い) 間を複線として共同使用している。駅から分岐点まで単線の一部を2社が共有するところはいくつかあるが、このような利用法は同区間だけだ。手前側、車両が通過している線路が名鉄の、奥の線路がJR東海の所有となっている。
名鉄電車は船町・下地には停車しない (駅としても扱わない)。豊橋の名鉄発着線が1本しかなく、それと共用開始時からの協定により、名鉄の1時間あたり列車通過本数は6本までに制限される (JR側も最大6本/時)。これを快速特急・特急・急行の各2本で使い切り、普通列車は手前の駅・伊奈(いな) で折り返すため、豊橋は1982年から名鉄全駅中で唯一、普通の停まらない駅となった。

クモハ119-5102

クモハ119-5102

  • 飯田線 船町←下地 2012-1
  • D700, AF-S Nikkor ED 80-200mm F2.8D, ISO250

飯田線の普通電車は、1982年から現在まで119系が主役を務めてきた。最後の旧国天国だった同線の車両刷新に投入された同系は、1M方式の105系をベースに閑散路線の長距離運行にあわせてセミクロスシートとした。天竜川の流れをイメージしたスカイブルー地にライトグレーの帯という出で立ちで、クモハ119-クハ118の2両、あるいはクモハ-クモハ-クハの3両を基本に運用された。トイレはクハに設置される。
基本的に飯田線専用で、上諏訪 (中央東線) への乗り入れと書類上の所属・大垣車両区への回送でしか他線での走行はしない。静岡地区のシティ電車「するがシャトル」に抜擢され、専用カラーになった車両もあったが、高速走行はあまり得意でないためほどなく古巣に戻されている。塗装はその後JR東海の共通塗色に統一された。

民営化後に需給調整などのため3両編成からクモハ1両を抜き取り、運転台を増設して単行運転できるようにした100番台が登場、その後冷房化により車号に5000を加えた。豊川までの区間運行や増結用車という位置づけだが、5100番台×2となることもあり、その場合列車にも駅にもトイレがないのでときどき困ることに……。天下の東海道本線でも、トイレなしで長距離直通する211系があったりするので要注意だ。

クモハ119-5330

クモハ119-5330

  • 飯田線 江島←東上 2010-11
  • D700, AF-S Nikkor ED 80-200mm F2.8D, ISO200

JR東海の国鉄形電車淘汰方針に従い、飯田線でも昨年秋から本格的な車両交代がはじまった。313系の増備により、関西本線向けに投入された213系5000番台が飯田線へ転属。2扉で最高速度が低く、トイレがないといった事情でここ数年持て余されていた車両だが、転換クロスシートの設備を買われたようで、車椅子対応トイレ設置とワンマン運転対応改造を受けて、転入が進んでいる。
119系全廃の方針が明らかになってから、沿線に構えるカメラの数も増えてきた。一部車両がすでに運用離脱し、先日3月末での引退決定とこれにあわせたイベントが公式発表された。これからラストランに向け注目もさらに集まってくるのだろう。かつて同系に追いやられた旧型国電の末期と同じように。

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