前向きで行こう

鉄道の旅客車がほかの交通機関と決定的に違うのは、前後どちらの向きにも等しく走ることにある (ごく一部例外はあるが…)。そのため、クロスシートの配置は前後向きを均等にして結果的にボックス席を形成するのが普通。優等列車では進行方向に合わせられる転換式・回転式腰掛が積極的に採用され、路線どうしまたは自家用車との競合が激しい地区では快速・普通列車にも転換クロスシートが普及した。新幹線や特急列車は始発駅で座席をきれいに揃えて乗客を迎え、〔スーパーカムイ〕~〔エアポート〕とか〔しらさぎ〕のように途中で進行方向が変わる駅では、乗客が一斉に座席を回していく。
東海道・山陽新幹線では1980年代に普通車の転換クロスシートを簡易リクライニングシートに更新したが、横幅1mを超える3列席を回転させる余裕がなく、やむなく客室中央からそれぞれ車端に向けて固定した「集団離反式」となっていた。前向き席から優先して売るようにしていたが、座席自体も半端な構造であったから評判が悪く、結局100系でシートピッチを広げて全席回転できるようにしたのだった。ヨーロッパなど諸外国では高速列車でも「集団見合い式」など固定座席の採用は珍しくなく、くわえて窓割とあっていない座席も多数あるようだが、「前向き」の要求がこれほど高いのは、車窓の変化に富む日本だからこそだろうか。

デハ2101 京急

デハ2101

  • 京浜急行本線 鶴見市場→京急鶴見 2009-5
  • D700,AF-S Nikkor ED80-200mm F2.8D [DX], ISO250

京浜急行で快特 (泉岳寺~三崎口間) に運用されている2100形は1998年の登場。関東私鉄では珍しい転換クロスシートを備えているが、座席数を確保するためピッチは850mmと狭くなっている。したがって扉間の座席は折り返し整備時に進行向きへ強制的にあわせられ、乗客が転換することはできない。
同形が投入されるまで快速特急で活躍していた2000形は、車両中央向きに座席を固定した「集団見合い形配置」であった。現在は3扉・扉間ロングシートに変更され、おもに羽田空港アクセス「エアポート急行」(新逗子~羽田空港) 、快特増結または普通列車に使われている。

デハ2451 京急

デハ2451

  • 京浜急行本線 鶴見市場←京急鶴見 2009-5
  • D700,AF-S Nikkor ED80-200mm F2.8D [DX], ISO200

2100形のもうひとつの特徴は「歌う」ことだ。半導体制御の電車、チョッパ制御車やVVVF制御車は加減速時に半導体素子が高速でオン・オフを繰り返し、このとき「磁励音」と呼ぶ特徴的な音が発生するのだが、このころのVVVF車は可聴域でこの音が何回も上下するため、不快に思う向きも少なくなかった。各事業者やメーカーともこの音を抑える工夫を重ね、最近では周波数をかなり高くすることでかなりマイルドになってきた。
同形ではVVVF制御装置に独シーメンス社のインバータを採用 (車内の車号標記に"Powered by SIEMENS"の語句がある)、発進時にはっきりとした音階を奏でることから「ドレミファインバータ」とも称される (YouTube等に動画多数)。耳障りな音を聴かせる音にする逆転の発想であった。ほとんど話題に上らないのだが、同形より若干早く登場したJR東日本の常磐線E501系も採用車である。
京急では2100形と新1000形の初期グループまで採用されたが、その後は日本製の新世代インバータへ変更されて歌わなくなり、2100形とE501系についても機器更新の時期を迎えた現在、装置の取替えが進められている。上の2101編成(2101-2108) は撮影後の同年9月に更新された。

高速運転で知られる京急は車両設計にも独自のポリシーを持つ。2000形で付随車を設定するまで全電動車とし、他社局の乗り入れ車両にも先頭台車が電動機つきであることを求めている。なので2101は電動車、2115はパンタグラフを2基持っていても「付随車」だ。

サハ2115 京急

サハ2115

  • 京浜急行本線 鶴見市場→京急鶴見 2009-5
  • D700,AF-S Nikkor ED80-200mm F2.8D [DX], ISO250

一般的に特急列車の座席は進行方向に揃えられ、かつ任意に反転できることが求められるから、ボックスシートや集団見合い式の座席はあれこれ工夫を重ねても低い評価から抜け出せなかった。〔成田エクスプレス〕にしても、普通車がボックスシート→集団見合い形だった253系は引退し、後継E259系はオーソドックスな回転式になっている。
そんな中、意外なところで向きが固定の座席が登場していた。それはE5系新幹線の「グランクラス」で、JTB時刻表の座席案内に「座席を向かい合わせて利用することはできません。」という注釈が追加された。
むろん向きは進行方向にあわせられるし、1,300mmもあるシートピッチ (ちなみにJAL国内線ファーストクラスとANAプレミアムクラスは50インチ=1,270mm) だから任意の回転も可能なはずだ。なのでこれは同クラスで行われる各種乗客サービスのためということだろう。

この記事へのコメント

2011年12月04日 19:59
こんばんわ

もうアノ音聞こえなくなるのですね。
常磐線も利用する用事なさそうだしなぁ(^^;

古くなったものを新しくして
故障が少なくなって
安全が確保できればそれが一番ですけど
楽しみが減っちゃいますね。

でも空港からは
モノレールじゃなくてやっぱり
快速感のある京急が好きです♪

2011年12月08日 23:52
Anさん こんばんは。

空港ゆきは私も京急ですが(帰りはイロイロ…笑) 2100形は入らないのが残念。そんな京急ですがやはりフラッグシップは2100形、乗るとやっぱり発車時に聞き耳を立てたものです。正確には1000形の一部も「あの音」なので、もうすこし聞ける期間はあると思いますが、象徴だった2100形はすでに半数以上が更新されていますね。

輸入品で取り扱いも違うといった問題もあったということで、また故障の予防として更新していくのはしかたないところですけど、そうして特徴ある音が画一的になっていくのはちょっと残念でもあります。

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