錦秋を行く

大井川本線の終点 千頭からさらに先、井川(いかわ) までの25.5kmを走る大井川鐵道井川線、愛称「南アルプスあぷとライン」。大井川は電源開発などのため多数のダムが建設されてきたが、井川線は同水系最大の井川ダム建設に向け敷設された、762mm軌間の専用鉄道が発祥である。現在では軌間1,067mm になっているが車体寸法はきわめて小さく、国内にわずかに残る762mm軌間の「軽便」車両よりも小ぶりなほど。また旅客列車はすべてディーゼル機関車での客車牽引・推進なので、大井川鐵道は非電化区間を持ちながら気動車が1両も在籍しない珍しい会社である。
列車は大井川とその支流に沿ってゆっくりと走る。他の交通機関では接近できない深山の渓谷、いきなり正面にあらわれる長島ダムの威容、その人造湖・接岨(せっそ) 湖を渡る奥大井レインボーブリッジ、現役鉄道路線では日本最高度 (川底から100m)の 関の沢橋梁、と1時間50分間の車窓は飽きるところがない。さらに10~11月にかけての紅葉シーズンは、SL列車とあわせ多くの観光客を集めている。

井川線は大井川本線にも増して沿線地形が険しく、災害による影響を何度も受けてきたが、最大の岐路は長島ダムによる線路の水没だった。ダム建設に伴って線路を敷きなおした例は全国に散見されるが、輸送形式が特殊な閑散線区であった同線には存廃にもかかわる問題となった。結局、アプト式ラックレール (レール中間に敷く桟型の特殊なレール) と歯車を持つ機関車の力を借りてダム脇を一気に上る方法が取られ、1990年から新線 (アプトいちしろ~長島ダム~接岨峡温泉) での営業を開始した。アプト式新線の敷設とした決め手は、工期が最も短くなるからという単純な理由だそうで、しかし結果として観光路線としての同線の価値をさらに高めることになった。

ED901-ED902他 大井川鐵道

ED901-ED902-DD204

  • 大井川鐡道井川線 アプトいちしろ←長島ダム 2011-11
  • D700, AF-S Nikkor ED 80-200mm F2.8D, ISO200

この区間は営業キロ1.5kmに対して標高差は89mある。ラック区間の勾配は90‰に達し、普通鉄道つまり鉄輪で自走する方式としては日本最急勾配となった。道路の表記にすれば "9%" で、鉄道よりはずっと勾配に強い自動車道路でも警戒標識が立つほどの相当な斜度だ。このため列車は動力車を麓となる千頭側に連結し、さらに当区間では専用補機が上り勾配の後押しと下り勾配のブレーキ役を果たしている。
補機のED90形電気機関車は3両の在籍。もちろん国内の鉄道事業では唯一のラック式動力車だ。4軸機として"ED"を名乗ってはいるが、歯車駆動のモーターが2基搭載されている (しかも軌道動輪より出力が大きい) ため、実質はF形電機と言ってよい。

ED901-ED902 大井川鐵道

ED901-ED902

  • 大井川鐡道井川線 アプトいちしろ←長島ダム 2011-11
  • D700, AF-S Nikkor ED 80-200mm F2.8D, ISO200

となりに連結されている通し運転用のDD20形や客車群と比べると、背の高さがまるきり違う。さまざまな運転・保安機器を限られた車幅におさめるため、このような形になった。井川線はこの区間だけが電化されているのでED90は区間外で運転することはないし、そもそも前後区間のトンネルはじめ建築限界は従来どおりとなっているため、物理的にも出ることができない。同形の整備は、アプトいちしろ駅に隣接した検修工場で行われている。

この記事へのコメント

teru
2011年11月28日 23:07
こんばんは!
素敵な写真ですね!ぜひ大伸ばしプリントを!。
と・・・さておき、90‰ですか・・・う~む。乗りたい。それにしても凸凹振りも良いですね。

SLといい、元南海近鉄といい、これは数日宿泊でゆっくり体感したい鉄道ですね。魅力を感じました。
2011年12月02日 23:54
teruさん こんばんは。

なかなかきれいな紅葉というのは撮影しがたいところですが、斜光線に光る山の立体感もいいものだなと改めて思いました。
ミニ列車の井川線、90‰という強烈な勾配をラックレールで上るほか、渓谷美や超高所の鉄橋と見どころいっぱいですね。大井川本線も合わせると、一日で帰るのは確かにもったいない(笑)

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