ハッピー・トラムス 2

「黄色い電車、見ると幸せになれるかも」――最近ささやかれるこんな都市伝説は、「ドクターイエロー」こと新幹線電気軌道総合検測車923形あたりからよく耳にする。一般人が乗ることができないばかりか、ほかの検測車とも違い運行ダイヤが非公表という (建前上は) 隠密行動。遭遇確率がとても低い希少な車両だからこそ立つ噂かもしれない。
そんな伝説にあやかって、都内で「黄色い路面電車」を走らせる東京都交通局と東急電鉄が、11月1日から30日まで「黄色い電車でハッピーに!」という共同キャンペーンを行っている。どちらも黄色い電車は1台だけの運行、それを見に来てついでに乗ってもらえば……というねらいだそうだ。その実態は11月公開の映画タイトルに引っ掛けたタイアップ企画でもあるわけだが。
それはともかく、この話を聞いて都電で「黄色い電車」といったらコレか? と思っていたのだが、どうも違うようだ。

7022 東京都交通局

7022

  • 都電荒川線 王子駅前←飛鳥山 2011-3
  • D700, AF Nikkor 28-80mm F3.5-5.6D, ISO200

都電唯一の路線 荒川線は三ノ輪橋~早稲田間の12.2km。明治末期に電灯事業会社でもあった王子電気軌道 (王電: おうでん) が敷設開業した軌道で、いまも下町の足として親しまれている。
7000形は1954年~1964年にかけて製造、6000形とともに都電全盛期を支えてきた車両で、いまも21両が走る荒川線の主役だ。それまで一部を除き前後扉だった車体は降り口が車体中央に寄せられ、丸みを帯びた車体に大きな窓という軽快な姿で、都電の印象を一新した。
1977年のワンマン化にあわせて車体の更新が行われ角ばった姿へと大変貌、帯色も赤から青に変更された。路面電車につきものの乗降口ステップはこのとき廃止されている。荒川線はほぼ全区間で専用軌道を走行し (全廃寸前の都電で唯一残った理由でもある)、これを機に各電停のプラットホームをかさ上げしたからだ。車内には車椅子スペースも設置し、交通バリアフリーのさきがけともいえる。これら総合的な施策が評価され、1978年には鉄道友の会ローレル賞を受賞した。
その後各車とも冷房化改造を受け、都営バスも使うアイボリーとグリーンの塗装になっていたが、7022号は2005年に前代の塗装へと戻され、現在も塗色を維持している。屋上の集電装置は当初路面電車では標準的なビューゲル、冷房化で集電安定を図りパンタグラフへ交換され、さらに一部シングルアームとなった。7022号は撮影時シングルアームパンタグラフだったが、最近ひし形に戻されている。

8810 東京都交通局

8810

  • 都電荒川線 王子駅前←飛鳥山 2011-10
  • D700, AF Nikkor 35mm F2D, ISO250

都交通局がアピールする「黄色い電車」は、この8800形であった。老朽化した7500形の代替として2008年から投入された、荒川線の最新モードだ。その前に導入した9000形は旧東京市電ふうのクラシックスタイだが、こちらは現代のLRTらしいすっきりした外観となっている。
全10両が製造され、「末っ子」8810号は2010年12月に新製配置された。車体色は4色(マゼンタ、バイオレット、オレンジ、イエロー)、黄色は8810号1両のみということで「伝説」の主役となったわけだ。ちなみに都電の営業用車両は全38両、三ノ輪橋~早稲田間の標準所要時間は約1時間弱となっている。

都内もうひとつの路面電車は東急世田谷線、三軒茶屋~下高井戸間5.0kmはこちらも事実上全線が専用軌道である。沿線は「山の手」的な雰囲気が漂う住宅地だが、気軽に乗り降りできる雰囲気は都電と変わらない。若林駅近く、都内有数の交通量で知られる環七通りを堂々と渡る姿は見どころのひとつ。
長らく東急の標準色であった緑色の車体につりかけ台車、木造内装の70・80形と近代化車150形で運転されていた世田谷線の車両は、2001年に全車300系への置き換えが完了している。1999年に登場した同系は2車体3台車の連接車。旧70・80形の台車などを再利用した車両もあるが、それらも先立って交換されていた。
こちらも以前は2段ステップを上がって乗る高床式電車だったが、300系の低床化とホームかさ上げの「あわせ技」でバリアフリー化を達成した。10編成の色はそれぞれ変えられており、また301号はかつて「玉電」の愛称で親しまれた玉川線 (東急多摩川線とは違う) の塗装を再現している。世田谷線の所要時間は全線17分なので、黄色い306号は本線に出てさえいれば都電8810号よりずっと出会いやすい。

306A-B 東急

306A-B

  • 東急世田谷線 下高井戸→松原 2011-11
  • D700, AF Nikkor ED 18-35mm F3.5-4.5D, ISO400
  • 遠近補正処理を行っています

306前面 8810前面ふたつの路面電車、現在の場所は離れているが縁は意外に深い。世田谷線はもともと東急玉川線の支線だったが、その前身となる玉川電気鉄道は、多摩川で採取した砂利を都心へ輸送する目的で渋谷~玉川 (何度かの改称を経て現在の二子玉川) 間に敷設された。レール内幅(軌間) は開業時の 1,067mmから、当時の東京市電と直通できるよう1920年に 1,372mmへ改められた。関東大震災後、玉電の砂利輸送は都心部復旧に大いに貢献したという。
1,372とは一見ややこしい数値だが、ヤード・ポンド法に換算すれば 4.5フィート (4ft 6in) である。標準軌 1,435mmは 4ft 8.5in、日本で最も一般的な 1,067mmは 3ft 6inで、いずれも米英の馬車軌道に由来を持つとされる。都電の1,372mm軌間は前身の馬車鉄道が採用したのを受け継いだものだった。
1,372mmゲージを採用する鉄道事業者は世界的にも珍しいそうで、国内でもほかに使っているのは京王電鉄 (井の頭線以外) +都営新宿線だけだ。過去を振り返っても京成線・一時期の京急線くらいしか該当しないが、これまた前身が路面電車で市電乗り入れを狙っていたことによる。

さて、黄色い電車はもとよりドクターイエローまでしっかり(?)撮りきっている私ではあるが、これで幸せになれているかと言われると……さあどうでしょうね。


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