北国のノクターン

急行〔きたぐに〕は現行列車唯一となった電車三段B寝台のほかに、A寝台にグリーン車・自由席座席車までを一編成に組み込んでいることも大きな特徴だ。ほかのブルトレ等とおなじく同列車の運用以外は車両基地に留まり、昼夜分かたず走り続けた日々は遠い過去のものになってしまったけれど、列車内で昼と夜が同居する形態もまた同系の特徴を存分に活用したものだといえる。

583系客室最大のポイントは寝台・座席を両立させるための、アクロバティックともいえる複雑な構造にある。国鉄は開発にあたってモックアップ (実物大模型) を試作検討し、2等寝台・座席車 (→B寝台・普通車) については1等 (→A) 寝台車で標準的な「プルマン」タイプを採用。すなわち進行向きベッドを中央通路の両側に並べ、下段はボックスシートの背ずり座布団を引き出し、その上に格納した中上段をセットする方式である。
昼行向けには荷棚を設置する必要があったのだが、この設置方法がまたユニークだ。ひと区画ごとに通路側へ反転できるようになっていて、その空間へ中段舟体を通し、もとに戻ったところへ今度は上段がかぶさる。営業列車では寝台設廃を行わないので旅客が目にする機会がほとんどなく、言葉で説明するのが非常に難しいのだが、パズルみたいな座席←→寝台の転換作業は趣味誌にもよく載っている事柄なので、興味のある方は古本などを探してご覧ください。

サロ581-29

サロ581-29

  • 東海道本線 野洲←篠原 2009-7
  • D700, Nikkor 105mm F2.5, ISO400

当初1等車 (→グリーン車) は連結されなかった。寝台は1等との差異が少なかったし、リクライニングシートと寝台を兼用させるのはかなり困難だったようで、〔月光〕は食堂車サシ581を除く全2等のモノクラスで登場する。翌年から投入された東北特急では1等需要が高かったので、サロ481(489) 同等の座席を配置したサロ581で妥協したのだった。サロとサシも編成形態を整える観点から屋根(天井) が高く、〔北斗星〕などのスシ24もこちらが種車ならよりきれいな編成美になっただろう (サシ581は国鉄末期に全廃された)。

サロネ581-6

サロネ581-6

  • 東海道本線 野洲←篠原 2009-6
  • D700, AF-S Nikkor ED 80-200mm F2.8D, ISO400

急行〔きたぐに〕は1982年まで大阪~青森間を走破し (新潟経由)、一時期は日本最長距離急行列車だった。上越新幹線開業による特急・急行列車網の整理で新潟までに短縮され、車両も12系(座席) +10系(寝台) から14系(座席+寝台) に。そして1985年に583系へ置き換えられ、現在に至る。
A寝台車サロネ581形はこのときに誕生。当時客車寝台特急でもプルマン形A寝台の連結はめずらしくなかったが、減りつつある夜行急行にA寝台は〔銀河〕と並び異例の格付けだった。実態は余剰となったサハネ581の改造車で、中上段を撤去した後あらためて上段寝台を設置したもので、窓上の覗き窓が1列に減らされていることで他車と区別できる。B寝台と基本構造が同じため、臨時〔雷鳥〕など昼行列車では普通車として扱われた。サハネ581は2003年に廃形式となり、この改造を受けたがゆえに生き延びた車両といえる。

〔きたぐに〕は座席で数回乗った。ある夏、たまには★★(電車三段式) に寝てみようか……と寝台券を買おうとしたら、上段しか空いていないとの回答。そこは納得して購入したものの、大きな荷物を抱え高いベッドによじ登るのは…と思い、後日A寝台に「乗車変更」。こちらは下段が取れて、Bと違い頭もつかえず広い窓を独り占めできた。大阪で乗り込むと発車の前に車内改札が回ってきた記憶がある。
ブルトレでさえもなかなか乗れる状況でなくなった現在。中段あたりだったら一度経験してみたいなあ…と思いつつ、なかなかその機会が取れず今まで来ている。

この記事へのコメント

2010年02月17日 19:39
こんばんは。

電車三段B寝台は、もうこの列車だけなんですね。
私が昔むかし乗った寝台は電車ではありませんでしたが、何度か頭をぶつけたあの空間を思い出して懐かしくなりました。
さらに荷物を抱えて上段へ上るのは、やっぱり大変なんですね。ベッドに寝る、というよりは体を押し込む、といった感じなのでしょうか。
座席←→寝台の転換の様子はWeb上のどこかに載っていないかなぁ?と検索していましたが、見つけられませんでした。
急行「きたぐに」は地域の最終列車として、また通勤客の利用もあり、色々な性格を兼ね備え、まだまだ必要とされている列車なんですね。

ところで先日は別館へお越しくださり、ありがとうございました(汗)。撮影の覚書として始めたものですが、いつの間にやら3年目になりました。継続は力なり…となると良いのですが、いまだ修行中の看板は外せません(笑)。
2010年02月17日 23:33
こんばんは。

昼行・夜行両方に使えるマルチな電車として登場した同車ですが、でも寝台から座席へ(もしくはその逆)の作業は大変な労力と時間がかかっていたんでしたよね。
でもこういった発想って日本ならではという感じもして、その構造には興味がそそられるところです。
電車寝台といえば3段、パンタ下の2段は知る人ぞ知る場所といった感じですが、そういえば「きたぐに」ではA寝台もあったのでしたよね。
そのA寝台化によってサハネは消滅したもののサロネとして生き延びたのはちょっと皮肉にも思えますが、これも一度は乗って体験しておきたいものです。
そういえば私が初めて寝台に乗ったときはまだ普通に3段で、下段と上段は経験したものの中段は機会がないままなくなってしまいました。
2010年02月18日 22:32
水無月さん こんばんは。

〔きたぐに〕は最終列車や始発列車としての利用はもとより、深夜時間帯の途中各都市にもこまめに停車していく、昔ながらの夜行列車の使命を今なお保つ点で見逃せない列車ですね。寝台は現役唯一の三段、客車二段でも上段への昇降はときにヘンな姿勢を強いられますから、こちらだといっそう大変なのかなと思います。

583系の寝台~座席の転換は完全に人手に頼るので基本的に車両基地での作業、それも一時人手不足から全部座席のままで運行した列車まであったそうです。現在は定期的な転換は行われていないわけですが、基地でこれの見学会とかあったら面白いですよね。あっというまに動画サイトにあふれる気がしますが(笑)
JR東日本の車両(国鉄色)は寝台・座席ともけっこう使用頻度があるようですが、片方を座席、通路を挟んで片方を寝台という形態で団臨運行したこともありました。

別館のほうはですね……あれーと思ってリンクをたどり(笑) 今後も期待しております。もちろん私だって、いろいろ修行中ということで(苦笑)
2010年02月18日 22:39
加藤さん こんばんは。

583系といえば寝台と座席の両方を組み込んだ複雑な構造が特徴ですね。こんな仕組みよく考えたなあって、その姿をしのばせる419系に乗ると思い出します。
その組み立て解体は下段のシート転換、中上段の展開にカーテン・仕切り・梯子など取り付け、全部人の手による作業なんですよね。国鉄時代はそれを毎日やっていたなんてウソみたいな話です。寝台の設定にしても、(リネンなど)整備できる車両基地はごく限られているのが、秋田の583系が寝台仕様で走るときにわざわざ青森まで回送していることからも伺えます。非常に手のかかる車両のはずなんですが、几帳面に月一ペースで仕立ててくるのは実にありがたいことですね。
貴重な開放A寝台の一員でもあるサロネ581は、サハネの血を引く希少な車両といえますね。本来のA寝台は1ボックスを2人で使用するため、じつは下段は客車より幅広だったりします。
2010年02月19日 16:07
こんにちは。
新年明けてからはお初です。ちょこちょこ見させていただいていましたが、コメントする時間が無いくらい忙しくて・・・。自分のブログの更新で精一杯でした・・。遅かれながら今年もよろしくお願いします。
いつのまにか私のブログがリンク集に追加されていたようで・・・。
たいした写真もありませんし、ろくなブログでもないのにリンク集に追加いただきまして、ありがとうございました。
なので私のブログにも勝手ながらリンク集に追加させていただきました。

さて話を本題に戻します。
最後の定期列車に使用される京都の583系ですね~。私も昨年新潟を訪れましたが、ムーンライトえちごに乗る前に撮影しました。私自身583系はまだそのときしか見たこと無いですが、寝台電車の風格が漂っていましたね。サイドの方向幕なども面白い形をしていますし。
今年は山陰~関西方面に遠征の計画を立てていますが、そのときにまた583系のきたぐにを撮影できるといいです。
2010年02月20日 00:57
あら、「きたぐに」特集になっていますね(笑)
座席と寝台の転換作業、ホント見てみたいです
器用に活用を考える日本人の特性を最大限に発揮しているような車両ですね。
この間の「きたぐに」乗車は寝台が取れず、座席でした。A寝台、B寝台とも乗っておきたい列車です。でも、車両の傷みぐあいがはげしいみたいので、先行きが心配です。先週も、朝、回送で向日町へ帰る「きたぐに」の先頭車両の塗装がでこぼこになっているところが一部剥げ落ちて茶色が見えていました。ホームを通過する姿は、とっても可哀そうでした。。。
2010年02月21日 23:23
785@NE-501 さん こんばんは。こちらこそありがとうございます。

さて最後の583系定期運用〔きたぐに〕、オリジナル色ながらも全盛期の特急や夜行の風格が漂う列車ですが、これは長編成であることにもよるのかなと思います。正方形に近い側面の行先表示器や洗面所の明かり窓など、同系独自のデザインが多いところもその価値を高めている要因でしょうか。
ことし関西・山陰を訪れるご予定とのこと、また撮影できるといいですね。ほかにも日本海縦貫線には見ておきたい車両や列車がたくさんありますね。正直なところ、国鉄形や夜行列車は将来が約束されていない状態なので、私も機会あるごとに丁寧に収めていきたいものです。
2010年02月21日 23:28
さくらねこさん こんばんは。

583系の夜昼転換を見たのは雑誌に載った〔はくつる〕→〔はつかり〕の模様でしたが、その工程の複雑さもあって全部手作業なんです。「これは大変な作業だなあ」とつくづく感じました。それにしても限られたスペースにたくさんの物をみごと収納する知恵は、日本人ならではの発想かなと(笑)
〔きたぐに〕の走る北陸~信越地区は厳しい気候で、車体の傷みも少なくないようですね。残された時間はそう長くないと思うのですが、その日まで元気に走る姿をとどめてほしいものです。今回できなかった寝台の体験もされなければいけませんしね(笑)

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