カワセミとフクロウ

パンタグラフ。電車に欠かせない部品のひとつで、道路標識「踏切あり」でもすぐにそれと連想させ、子供たちが描く「でんしゃ」の屋根に間違いなく乗っている、ひし形の物体。pantograph とはもともと製図部品、組み合わせた棒とリンクの働きによって原図を複写または拡大縮小する道具で、枠の動きがそれを連想させることからついた名前だ。

725-7702

725-7702

  • 山陽新幹線 姫路←西明石 2009-4
  • D700, AF-S Nikkor ED 80-200mm F2.8D, ISO200

電車の生命線である集電装置は、黎明期のトロリーポール (現在もトロリーバスにその姿を残す)、路面電車によく採用されたビューゲル等を経て、集電性能がよく高速運転に適する現在のパンタグラフにたどりついた。主流となりつつあるシングルアーム形 (Zパンタ) も、基本的な構造はひし形のそれと大きな違いはない。「く」の字状のシンプルな形は、空気抵抗を受ける部品が減ることで騒音も軽減し、また雪の重みでパンタグラフが降下するのを予防できるといったメリット等から一気に普及した。
ところがそれらと一線を画した集電装置を持つ車両がある。1997年のデビューから現在まで高い人気を保ってきた新幹線「500系のぞみ」、その5・13号車にある「翼型パンタグラフ」。

525-1

525-1

  • 山陽新幹線 西明石←姫路 2009-4
  • D700, AF-S Nikkor ED 80-200mm F2.8D, ISO200

500系翼形パンタグラフパンタグラフといいつつも、この集電装置はそのイメージとは大きくかけ離れており、直立する一本の柱の頂上にスリ板 (集電舟) を乗せた、シンプルかつ大胆なスタイルだ。一見するとただの棒だが、進行方向に大きく引き延ばした長楕円形。表面にはフクロウの羽をヒントにつけられた小さな突起が並び、集電舟の先端 (ホーン) にも小さな穴が開いている。いずれも高速の空気を受けるパンタが発する「風切り音」を可能な限り抑制するための工夫で、カワセミを思わせる先頭部や車体構造ともあわせ、環境性能を確保しつつ300km/h営業運転に挑む500系の姿勢をあらわにした部分といえる。
このパンタ、見ての通り折れ曲がる箇所がない。収納はどうするのか? 答えは、柱ごと横方向 (上の写真では左側) に倒れる。高さが変わるのにはどう対応する? 小さな変動には内蔵したシリンダの空気圧によって柱が上下方向に伸縮し、追従する。在来線と違い、高さがほぼ一定に保たれている新幹線の架線ならではの考え方だろう。

527-7703

527-7703

  • 山陽新幹線 姫路←西明石 2009-4
  • D700, AF-S Nikkor ED 80-200mm F2.8D, ISO200

〔のぞみ〕を退いた500系は7000番台8両編成に短縮され、山陽新幹線〔こだま〕運用についている。〔こだま〕では300km/hまで到達しないし (7000番台の最高速度は285km/h)、翼型パンタは特殊部品を必要とする難点などから700系と同様のシングルアームに取り替えられ、工事の都合上搭載車両も変更された。
昨年11月10日から500系16連の定期運用は博多→東京→博多の日1往復となり、それも2月28日限りで終了。ついに〔のぞみ〕そして東海道から撤退する。他に例を見ない集電装置は現在2編成に4台残るのみで、それらが風を切るのもあと1ヶ月だ。


500系のぞみ Special site (JRおでかけネット)

この記事へのコメント

2010年02月01日 23:01
500系のぞみ、もう1ヶ月を切ってしまいました(涙)パンタがフクロウがモデルだというのは、何かのクイズ番組で見た記憶があります。しかし、本質の部分はこんなまっすぐな棒だったんですね。
8両編成の500系は、パンタが付け替えられているのですか。本来の500系はもう2編成のみ、残っているのはW1とW8と聞いています。2月は金曜に臨時が走り、2往復見れるダイヤですけど、平日なので見れないので残念です。夕日に金色に光る500系をもう一度見たかったなー
2010年02月04日 22:04
さくらねこさん こんばんは。

いよいよ500系のぞみも残り1ヶ月を切りました。最後が日曜日になるわけですが、残すとしたらどう撮るか考え出すところです。
もはやパンタとは呼べないほど、ある意味では進化を遂げたといえる翼形のパンタグラフは、500系のイメージを強く主張するものでした。ただ、300km/hのためだけに開発されたともいえる特殊な装置で、8両編成では一般的なパンタグラフに置き換わってしまいました。現在残っているのはW1とW8のようですね。
2010年02月05日 08:52
おはようございます。

カワセミとフクロウって何だろう…と思ったのですが、パンタグラフだったんですね。
パンタグラフに注目したことがなかったので、こんなふうになっているのかと驚きました。
500系の翼型パンタグラフ、カッコいいですね。
もうなくなるのは残念です。
2010年02月07日 22:26
静さん こんばんは。

記事タイトルをどうするか、ストレートかヒネるか…は毎回思案のしどころです。たいていスベりますが(苦笑)

圧倒的な人気を保つ500系のぞみですが、このパンタグラフ(…といえるのかどうか)も特徴で、ひとつの魅力でした。こんな装置は後にも先にも登場しないだろうという点で、歴史的に残る一品ではないかと思います。
スピードを突き詰めると自然を手本とすることになったというのは、計算をしたわけでもないのに自ずとそうなった、自然の神秘というものも感じさせてくれます。

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