オールドタイマーの秋風

ローカル鉄道の郷愁を誘うアイテムはいくつかあるが、こと車両に関してはニスまたはペンキ塗り内装や木貼りの床、そして「バス窓」ではないだろうか。
「バス窓」は正式名称ではないが広く通用する客室窓の一形態で、開閉可能な一枚窓の上に明かり取りとしてHゴム押さえの固定窓を配置したスタイルをいう。戦後路線バスなどで採用が進み鉄道や路面電車へ波及したことから、いつしかそう呼ばれるようになった。アルミサッシのユニット窓を使うようになって、ずいぶん前に採用は止められたけれど、自動車と鉄道車両は寿命が倍以上異なるため、本家が廃れた後も路面電車を中心に現在まで残ってきた。

紀州鉄道に走るキハ600形603号は鉄道におけるバス窓最後の車両といえ、古風な設計や車体構造を残す数少ない車両でもある。
同社は紀勢本線 御坊 (ごぼう) からの路線を伸ばしていた御坊臨港鉄道が、東京の不動産会社に買収されたもので、その後末端の西御坊~日高川を廃止して現在に至る。営業キロはわずかに2.7km。普通鉄道では芝山鉄道 (2.2km) に次ぐ最小規模ながら、路線は全5駅もある。基本的に終日1両でこなすが頻度はそこそこ高く、きのくに線 (紀勢本線) との連絡も良好に保たれている。

キハ603 紀州鉄道

キハ603

  • 紀州鉄道 学門←御坊 2009-9
  • D700, AF-S VR-Nikkor ED 70-300mm F4.5-5.6G, ISO200

キハ603はいわゆる湘南顔―二枚窓の前面+金太郎塗りと側面のバス窓が最大の特徴。窓下にウインドウシル (window sill) という補強板があるのも古典的だ。大分交通で走っていた2両を購入して走らせていたが、同僚の604はすでに部品取り用になっていた。残る603も老朽化が進んで安全運行の限界に来てしまったため、北条鉄道から購入した小型2軸レールバス キテツ1形 (←フラワ1985) に交替することになった。1両は2000年に導入され、非冷房のキハ603は金~日曜に半ば動態保存として運転されてきた。
今年いっぱいまでという話だから早めに行かないと……と思ったところへ「9月で終了する」という話を聞いて急遽訪れた。前夜は新大阪までしか到達できず、翌朝の快速列車で御坊へ。若干の不安を残して駅手前のカーブを曲がると、見慣れた濃緑の車体が停まっていた。

その小さな車体に揺られ隣の学門 (がくもん) まで乗る。引退が近いことは知られていたし、朝から賑わっているかと思いきや、車内・沿線とも適度な人出で、落ち着いてアングルを探すことができた。青空の下、稲の刈り取った畦には彼岸花が咲いている。気温も上がるにつれ、窓が次第に開いていく。
バス窓は鉄道車両、路面電車でもかなりポピュラーだったが、もうひとつバスに特徴的ないわゆる「メトロ窓」、左右引き違い窓のは国内鉄道車両の客用窓として使われた形跡が見当たらない。急行グリーン車や185系そして205系といった形状の近いものは存在するが、いずれも一段上昇または下降式となっている。

それで転機の9月を終えて同車は? というと、これを書いている時点では引退したというニュースがまだ聞こえていない。交替となるキテツ1も現役最後のレールバスという点で貴重であり、いずれにしてもまた訪れるつもりだ。



■追記(10/24)
同車は10月25日 15:25御坊発をもって引退となることが発表された。

この記事へのコメント

2009年10月08日 21:19
こんばんは。

先日の山万ユーカリが丘線もそうでしたが、紀州鉄道も鉄道事業のほか、不動産業のほかホテル業も営む企業なんですね。
私の知らない地方鉄道が、まだまだあるのだと不勉強を思い知るところです。

古風な外観のキハ600形のバス窓、そういえば以前のバスの窓って、窓の上にまた窓があったな~と思い出して懐かしくなりました。
座った場所によっては、渋くてなかなか上がらない窓もあり、上がったと思ったら下がらなくて焦ったこともしばしばでした。
9月が終わり、まだこの車両は走っているのですね。バスのような外観のキテツ1のサイドビューも見てみたいです。
2009年10月09日 06:29
おはようございます。

本当に全国の小さな鉄道は知らないものばかりです。
こうして紹介していただけると嬉しいです。

横から見てもなんだか懐かしくて可愛い車両です。
こういうのはバス窓なんですね。
でもやはり古い車両は引退してゆくのですね。

伊予鉄の路面電車は、新しい低床電車とともに木張りの床の古い電車もまだ走っていますが、いつなくなるかわからないと思うと、やはり写真に撮っておかなくては…と思いました。
2009年10月10日 15:45
こんにちは。
電車の外観の塗装の仕方にも新旧&バリエーションがあるんですね。
初めて目にすることがいっぱいで、勉強になりました。
バス窓も趣があっていいですね。
今度電車を見る時は、塗や窓にも気をつけて
見てみたいと思います。
2009年10月10日 22:20
水無月さん こんばんは。
私もこういった小私鉄に目を向けていくと、まだまだ知らないことだらけだなと思わされるところです。

紀州鉄道の本業は不動産業なのですが、御坊の小私鉄をわざわざ買収したのは鉄道会社という名前の重みが欲しかったからだと言われていますね (もっとも鉄道とまったく縁がないのでもなく、猪苗代湖畔の磐梯急行電鉄が元ということですが)。そういう経緯からなのか、県内の他のローカル私鉄が無くなった後も、こうして古い気動車を走らせています。
同社が営業する「白浜ホテル」、南紀白浜だと思っていたけれど「東京から直通バス……」との文句になんだかおかしいぞと思ったら、房総半島にも白浜という場所があった(笑)

現代ではいろんな事情から下の窓を開かなくしたり、そもそも開かない窓になったり。たまに窓を思い切り開けられる非冷房車だと、逆に嬉しくなります。普段の客にはうんざりかもしれないのが心苦しいですけれど。
2009年10月10日 22:21
静さん こんばんは。

地方私鉄に行くと、大手私鉄のお下がりステンレス車も多くなってはいますが、まだそれ以前の雑多な車両の余韻を残すところも多いですね。ハマりそうです(笑)

古風な感じのバス窓、本来のバスでほとんど見られなくなった(たまに廃車体が放置されているのを見ることもありますが)ところが、より希少価値を上げているのかも知れません。
そういえば松山の路面電車にはまだ木張り床の電車がありましたね。いつでも見られると思ううちに気づけば稀少品になったりして、普段から記録することの大切さを常に感じます。
2009年10月10日 22:23
スウさん こんばんは。

私もこうして写真に撮っただけではまだわかっていなかったことが多く、勉強になっております(笑)
昔の路線バスはこんな窓だったなと思いながら乗ったり見たりしていました。ちょっと油くさい室内もまた、昔の記憶を呼び起こしてくれます。
この紀州鉄道でこれから主役になるレールバスも、これまた最近なかなか見なくなった80年代バスの面影が非常に濃い、ユニークな車両なんですよ。また後日紹介したいと思います。

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