再発信・再発見

人吉盆地の中央を、球磨川とともに一本の鉄道路線が伸びている。その名もくま川鉄道、特定地方交通線の第三次指定となった湯前(ゆのまえ)線を引き継いで1989年に開業した。
同線もその歴史は肥薩線に劣らず古く、開業は1924(大正13)年。終点の湯前から九州山地を越えて熊本~宮崎の連絡鉄道となる構想だった。宮崎県側の杉安・妻~佐土原(さどわら・日豊本線)間は妻線として開通し、その間は国鉄バスが「鉄道路線の先行開業」という名目で連絡していた。しかし妻線は特定地交線の第一次指定を受けてあっさり廃止され、バスもJR九州へ引き継がれたものの、輸送量があまりに小さすぎて路線維持できなかった。
このルートを宮崎からたどったことがある。その当時、一日で八代・熊本へ着ける乗り継ぎ行程は一組しかなかった。中型路線バスで一ツ瀬川の流れを延々と遡上し、西米良(にしめら)村の中心・村所(むらしょ)で秘境の雰囲気を残す山村の空気を味わった。その先ははさらに閑散区間で、小型の村営バスでひとり峠越え。変化に富んだそちらの印象が強すぎて、じつは同線の記憶があまり残っていない。

ローカル線全般に言えることだが、通学生を頼りにした輸送体系は少子化の影響を大きく受け、同線の行く手もまた険しい。そんな中で、〔SL人吉〕の運転開始を機に「自然博物館列車」と銘打った濃緑の車両が2両登場、「KUMA1, KUMA2」と名付けられた。車内はいわば「走る博物館」で、KUMA1は球磨川の自然と博物誌を、KUMA2は人吉・球磨盆地の見所をそれぞれ案内し、同線と球磨地方の魅力を発信しようというコンセプトだ。

画像

KT-203・103

  • くま川鉄道湯前線 川村→相良藩願成寺 2009-5
  • D700, AF-S VR-Nikkor ED 70-300mm F4.5-5.6G
  • ISO200, 1/100, f9

16m級の車体は全国各地の地方三セクで一般的に用いられる"NDC"という軽快気動車である。言ってみればなんの変哲もない車両だが、塗装ひとつでずいぶん印象も変わるものだ。もうお気づきだろうが、こちらも水戸岡氏率いるドーンデザイン研究所の手によるリニューアル車である。
〔SL人吉〕と共通のイメージを持った上質な車両は乗り換えた乗客を飽きさせないし、単なるイベント用としてでなく日常的に運用を行うことで、沿線の利用客にも親しみと誇りを持てる車両となっている。詳しいところは同社のリリースをご覧いただくとわかるのだが、これら車両のリニューアルに共通するスタンスを、はっきり読み取ることができるだろう。
いまのところ私にとって同線はのりつぶし上の通過でしかなかったが、この車両でもう一度車窓を眺めてみれば、新たな発見が得られるかもしれない。

この記事へのコメント

小さな鉄道博物館
2009年05月21日 05:45
おはようございます。

鉄道車両はただ単に人を運ぶだけではなく乗って楽しむのを考えた素晴らしい車両の登場ですね。この様な考えを北海道でも考えてほしい所ですが残念ながらJR化20年たってもまだまだと感じています。

そこで最近は釧路ー根室間を走る花咲線にキハ54を使ったラッコ列車「クーちゃん号」を考えています。(笑)地元活性化をアイディアを集めニーズにあった車両が登場してほしいです。(現在クーちゃんは故郷・根室地方に移動)
2009年05月21日 08:44
おはようございます。

素敵な渋い色の車両なんですね。
やはり鉄道会社の取り組み方なんでしょうか。
こういう列車がイベントではなく、日常的に走っているのは本当に素敵だと思います。
2009年05月22日 00:50
渋い色の車両、おしゃれなロゴにカーテン♪ステキだなあと思ったら、これも水戸岡デザインなんですね。3-4年前に日経新聞で連載されていた「ローカル線をゆく」で、このくま川鉄道も紹介されていました。学生でにぎあう様子に、鉄道が地元に密着しているようで、行ってみたいなぁと思ったものです。(この連載は切り抜いてスクラップしています。52週のうち3週抜けているのが残念ですが)。私も昨夏のときに乗りたかったのですが、隼人から水俣まで青春18で抜ける行程では寄ることができませんでしたので、ここで見せていただけてうれしいです。
先週の土日、東京ビックサイトであった大きなアートフリマ「デザインフェスタ」に写真を出展してきました。4回目になる今回は鉄道のある風景も持っていってみました。ローカル線の風景が結構目をひいたようで、鉄道の人気を感じました。
2009年05月23日 20:55
小さな鉄道博物館さん こんばんは。

JR北海道の北欧的でシンプルな素材感も好きなところですが、寒冷地ということで木を取り入れ暖かみのある車内にしてもいいかもしれません。

「クーちゃん号」いいですね。外装は流氷とクーちゃん、車内はラッコの抱っこシートでしょうか(笑) 花咲仕様のキハ54といえば、以前あったハナマスのラッピング車が事故で失われているので、新たなペイント車が欲しいところ。ぜひアイデアを具体化させてください。登場したらかならず撮影に行きますので(笑)
2009年05月23日 20:55
静さん こんばんは。

くま鉄で公開されている企画書を見て(こういうのが公開されているのも珍しいですが)日常的に「上質な車両」を走らせて「地元に誇りを」という狙いを理解し、私もあらためて水戸岡デザインを評価したところです。また派手そうに見えて実はコストも考えているあたり、なるほどよく考えられているとも。
わかやま電鉄もそうですが、こういった車両を日常的に走らせる取り組みは(大変でしょうが)素敵ですね。
2009年05月23日 20:56
さくらねこさん こんばんは。

渋い色にロゴをちりばめた水戸岡デザインに共通する意匠ですが、実はコストも考えられている(単色+シールなら塗装工程も1回ですむ)というのは目から鱗でした。見た目の派手さだけでない、デザインの巧みさを感じます。
くま鉄は沿線に学校が多いそうで、路線存続もそれが決め手だったようです。だんだん通学生が減って大変なところで、このような車両を登場させた心意気を評価したいです。こんどは乗って体感しないとなあ、と(笑)

デザインフェスタ出展お疲れさまでした。鉄道の写真も人気が高いようですね。

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